FRBと政治(その2)
連邦準備制度理事会(FRB)は12月11日、地区連銀総裁の再任を全会一致で承認したことを発表した(FRBと政治(2025年8月26日))。これによって、すでに退任を表明しているボスティック・アトランタ地区連銀総裁以外の総裁の続投が固まった。
今回の再任が注目されたのは、金融政策において、地区連銀総裁の歯止めとしての存在感が高まっていたからだ。連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRB理事7人に地区連銀総裁5人を加えた12人が投票権をもっている。FRB理事のうちボウマン副議長やウォラー理事、ミラン理事の3人はトランプ政権が指名した理事であり、政権の意向に沿いやすいとみられている。その他4人のうち、クック理事はトランプ氏から解任を告げられ、訴訟の最中にある。パウエル議長の議長としての任期も2026年5月に迫っている。そのため、トランプ政権による指名者が理事の過半数を占める可能性がこれまでになく高まっていた。この状況で、地区連銀総裁が歯止めになりうるため、その再任阻止に向けた動きがとられるという懸念があった。それに加えて、ベッセント財務長官が、地区連銀総裁は就任前の少なくとも3年間は現地に居住しているべきだと発言するなど、地区連銀総裁らへの締め付けを見せていたこともある。
実際、大幅な利下げを求めるトランプ氏の意向とは、反対の考えを持つ地区連銀総裁は少なくない。10月のFOMCではシュミッド・カンザスティー地区連銀総裁が政策金利据え置きを支持して、利下げに反対した。12月のFOMCでも引き続き据え置きを主張したシュミッド氏に加えて、グールズビー・シカゴ地区連銀総裁も据え置きを支持した。これらの地区連銀総裁の利下げ反対は、トランプ氏にとって好ましいものではなかったはずだ。また、FOMC参加者の経済見通しに基づくと、12月据え置きを支持した人は19人中6人いた。また、12月の利下げした水準からの利下げを2027年末にかけて支持していない人は7人いる。今回、投票権がなかった地区連銀総裁の中にも、利下げ反対の意向を持っている人がいる可能性は高い。
FRBの政治を巡る懸念の1つは、懸念のまま終わった。しかし、これからが本番とも言える。2026年1月にはクック理事の口頭弁論が控えており、その問題はまだ決着していない。また、同月末にはミラン理事の任期が切れる。後任にどのような人が選任されるのかも注目される。
その中でも最も重要なのは2026年5月に任期を迎えるパウエルFRB議長の後任だろう。利下げ支持者が選任される可能性が高く、FRB全体の姿勢も変わるかもしれない。これまで議長は、任期切れとともに理事を退任していた。しかし、パウエル氏が理事として残ると、新たな人を送り込む枠がない。現在の理事の中から議長を選ぶか、誰かに退任してもらって、議長候補として理事を送り込むかの選択となる。副議長だったバー理事は、副議長退任後も理事として残っており、そのような選択肢がないわけではないことを示した。バー氏は、トランプ政権が支持する金融規制の緩和にも批判的な姿勢を見せている。
もちろん、トランプ政権による指名といっても、必ずしもその意向通りに行動するわけではない。ミラン理事は0.5%利下げを支持した一方で、ボウマン副議長やウォラー理事は0.25%利下げを支持しており、トランプ氏が求める大幅な利下げから距離を置いてきた。FRBが政策金利の追加調整の幅と時期を考える際に、入手するデータや進展する見通し、リスクバランスを注意深く評価する中で、政治がかく乱要因として大きなウェイトを占める状況が当面続きそうだ。
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