気候変動問題とエネルギー問題
コラム
2025年12月18日
住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部 シニアアナリスト
大井 二三郎

2025年は、観測史上最も気温の高かった2024年に続き、世界各地で高温を記録し気象災害も多発した。しかし、欧米諸国では2024年の選挙で内向きの民意が示され、地球規模の社会課題である気候変動対策の推進力は低下している。COP30での議論も取り組みに弾みをつけるものとはならなかった。
そのような中、エネルギーの脱炭素化の行方はエネルギー問題に関する環境以外の二つの要素、つまり安全保障と経済性に大きく左右されるようになっている。特にウクライナ危機や米中対立などの地政学的リスクの顕在化はエネルギーの安定的で経済的な供給の重要性を再認識させている。
この三要素のバランスの見直しを複雑にしている一因に、再生可能エネルギー(太陽光、風力等)の利用普及がある。再生可能エネルギーはエネルギーの脱炭素化の重要な手段であると同時に地産地消型のエネルギーであることから安全保障にも資するが、その資源(自然エネルギー)の賦存状況は既存の化石エネルギーのそれとは大きく異なる。また、太陽光パネルや風力発電設備の製造では中国が供給能力において圧倒的な優位にあり、製造のためのサプライチェーンが新たな安全保障の課題ともなる。そのため、再生可能エネルギーも考慮に入れた環境、安全保障、経済性の合理的なバランスは必ずしも化石エネルギーを前提としたバランスと同じとは限らない。日照条件に恵まれた地域では太陽光発電の経済性が評価されるであろうし、化石エネルギーに恵まれた地域ではその経済性が改めて評価されるかもしれない。クリーンエネルギー技術に関係する国内産業の有無もバランスの在り方に影響しよう。
環境面の規範的拘束が緩む中、各国は三要素の合理的なバランスを模索している。米国は環境を脇において化石エネルギー大国としてのポジションに基づき安全保障と経済性を強化しようする一方、欧州は環境への思いを残しつつ安全保障と経済性への対応を迫られている。中国は潤沢な供給力を背景とするクリーンエネルギー技術の大量導入により三要素のバランスを追求している。その他の国々も各々の利用できる資源、技術を踏まえて、安全保障と経済性の確保に努めている。今後の気候変動対策、エネルギーの脱炭素化に向けた取り組みは、各国が各々の選択肢を見つめ直す中で、最も現実的な道筋として現れてくるのではないだろうか。
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2025年12月18日(木)
『日刊産業新聞』に、当社社長 横濱 雅彦が開催した『2026年の世界情勢・経済見通し』説明会の内容が掲載されました。 - 2025年11月20日(木)
「景気とサイクル」景気循環学会40周年記念号第80号に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之が寄稿しました。 - 2025年11月18日(火)
『日本経済新聞(電子版)』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2025年11月17日(月)
『Quick Knowledge 特設サイト』に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之のQuick月次調査・外為11月レビューが掲載されました。 - 2025年11月13日(木)
『日経ヴェリタス』に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之のコメントが掲載されました。
