インドは再エネを軸とした経済成長を実現できるか

2026年01月14日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
土田 慧

 

2024 年頃より何回目かの「モテ期」に入ったインド。2025年は、5月にパキスタンとの間で武力衝突が発生したほか、8月にはロシア産原油購入等を理由に米政権より計50%の関税を課されるなど、何かと話題に事欠かなかった一年であった。今回はマクロ的かつ中長期的な目線から、同国の経済発展にかかる方向性について、考察を述べたい。

 

2025年は上記のような地政学的なイベントに加え、長年停滞していた構造改革に関するアップデートも目を引いた。特に、11月の労働法改正や、12月の保険業界への外資参入規制を緩和する法案に加え、外資原発機器メーカーの参入を促す原子力法案が連邦議会下院で可決されたこと等である。これら所謂「構造改革」については、経済成長率(実質GDP成長率)の「巡航速度」となる潜在成長率を引き上げるために不可欠な施策である。モディ首相自身、Xにて「インドは各種改革の波に乗った[*1]」と投稿しており、今後も構造改革を続ける意図が読み取れる。

 

モディ首相は、2047年までにインドを高所得国入りさせることを目指している。一般的に「高所得国」は、当該国の一人当たりGNI(国民総所得)が一定閾値を超過しているかどうかにより識別する。世界銀行は2025年2月に、「India Country Economic Memorandum 2024 -Becoming a High-Income Economy in a Generation-」との題名のレポートを公表。2023年時点でのインドの一人当たりGNIは2,540ドル(世界銀行)となっており、2047年までの高所得国入りには実質GDP成長率を毎年平均7.8%まで底上げさせる必要があると指摘する(現在の潜在成長率は6.5%(世界銀行推計))。

 

本レポートではインドの潜在成長率を底上げするために必要な複数の施策を提言しているが、本コラムでは施策の一つとして挙げられている「質の高い」雇用創出に着目したい。

 

インドでは、特に若年層の雇用問題が深刻な課題となっている。彼らは特にフォーマルセクターにおける仕事に就けていないことで、失業状態が長く続いていることが問題となっている。国際労働機関の推計によると、2024年における15~24歳の若年層にかかる失業率は16%と、インドネシア(13.1%)やベトナム(6.8%)などインドと同様に中所得国の国々と比べて高い水準にある。加えて、生産年齢人口のうち労働力人口の割合を表す労働参加率に関しても上記の国々より低いことが本レポートにて指摘されている。彼らが特定の仕事に就き、かつ給与水準が持続的に向上しない限り、一人当たりGNIの上昇には重石となってしまう。

 

インド政府としてもこの点には強い問題意識を持っている。2014年に掲げられた製造業振興スローガン「Make in India」や、それに紐づく政策であり、生産量に応じて企業に補助金を付与する「生産連動型奨励策(PLI)スキーム」の政策目標の一つとして、雇用創出が挙げられている。

 

PLIを含めた製造業支援策にかかる支援対象品目には携帯電話や電子機器・部品、医薬品などが挙げられるが、筆者はそのうちの一つである太陽光パネル・風力タービンに注目している。インドは2070年までの温室効果ガス排出量ネットゼロ達成に向け、国内での再エネ発電容量の増加を目指している。またエネルギーに関しては、エネルギー供給量全体に占める原油・ガスの割合が石炭に次いで高いが、これらの輸入依存度は相応に高い。これらの市況価格の動向によりインフレ率が大きく左右されるほか、エネルギー安全保障の観点からも懸念が残る。国内に設置・輸出する太陽光パネル・風力タービンを自国で生産することで、雇用創出が見込めるほか、脱炭素を推進させ、更にはエネルギー安全保障上のリスクも抑制することができると考えられている。

 

風力タービンに関し、地場・外資企業双方による国内生産積極化によりインドは純輸出国となっている。また太陽光パネルの製造工程は上流から下流にかけて①多結晶シリコン②インゴット③ウエハー④セル⑤モジュールの5段階に分けられるが、インドは最下流かつ労働集約的なモジュールの組立工程に関してはPLIも奏功し国内での製造が進んでいる。元々は設置容量に対して国内での製造能力が追い付かず、中国製モジュールにかかる輸入依存度が高かったが、直近ではWaaree EnergiesやAdani Solarなどインド系企業による生産拡大により、純輸出国に転じている。労賃の低さがコスト競争力の高さに繋がっており、輸出を促進しているという側面もある。

 

他方で本工程はより上流の工程に比べ創出される付加価値が低く、その結果、労働者一人当たりが産み出す付加価値である労働生産性も低い傾向にある。労働生産性を恒常的に引き上げられない場合、一人当たりGNIの伸びも停滞することになる。またこれら上流工程に関しては、依然として中国への輸入依存度が高い傾向にある。今後「質の高い」雇用を生むため・中国との外交関係も踏まえた経済安全保障上のリスクを解消するためにも、上流工程への移行が不可欠となる。

 

この点に関してはインド政府としても問題意識を抱いている。2025年には、政府が関与する太陽光発電案件において使用する太陽光パネルにつき、セルを国内製造業者から調達するよう義務化した「モデルおよび製造業者の承認リスト2(ALMM2)」が公表された。2021年に政府が公表したALMM1ではモジュールのみが国内調達義務対象であったため、ALMM2により上流の製造工程についても国内生産を促す狙いがある。これらの政策と企業による生産拡大・上流の製造工程への移行を通じて、雇用の「質」と「量」双方を確保することを目指しているとみられる。

 

「質の高い雇用創出を通じた経済成長」・「エネルギー/経済安全保障の確保」・「脱炭素目標達成」の3本柱を、再エネ設備の製造を起点に達成できるかどうか、今後も着目したい。


[*1] Xにおけるモディ首相のポストより
(原文:「India has boarded the Reform Express!~」)

URL: https://x.com/narendramodi/status/2005951886642339899

 

<参考文献>

World Bank. 2025. India Country Economic Memorandum: Becoming a High-income Economy in a Generation. © World Bank.(世界銀行、2025/2/28)

<参考データ>

ILOSTAT(国際労働機関、2026/1/13にURLにアクセス)

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。