FRBと政治(その3)
2026年も、FRBと政治の緊張感が継続している。パウエルFRB議長は1月11日、自身が司法省の刑事捜査を受けていると明らかにした。司法省は1月9日、大陪審への召喚状を送付していた。FRB本部改修を巡る議会証言に偽りがあったという疑いがかけてられている。
これに対して、パウエル議長は11日に声明を発表し、反論する姿勢を明確にした。その声明の中で、パウエル氏は、「この前例のない措置は、政権による脅威と継続的な圧力というより広い文脈で捉えるべき」とした上で、「刑事告発の脅威は、我々が大統領の意向に従うのではなく、国民に奉仕する上で最善と判断して金利を設定したことの結果だ」と述べた。「これは、FRBが証拠と経済状況に基づいて金利を設定し続けられるか、それとも金融政策が政治的な圧力や威嚇によって左右されるのかが問われる」とも指摘した。政治と一定の距離を保つ中央銀行のトップとして、やんわりと間接的に批判するのではなく、正面きっての批判を展開した。なお、弁護士資格を持つパウエル氏は個人で弁護士事務所と契約して、対応に当たっていると報じられている。
この対立姿勢によって、市場ではパウエル氏が議長退任後も理事として残留するという見方が、以前よりも強まっている。パウエル氏の議長としての任期は2026年5月であり、理事としての任期は2028年1月になっている。通常、議長退任後、理事の任期が残っていても理事も同時に退任するのが慣例であるが、議長を退任しても、理事として残るという選択肢もある。実際、1948年までFRB議長を務めたエクルズ氏は議長退任後に理事としてFRB内に残っており、そうした前例はある。
米政権は、解任通知を出したクック理事、ミラン理事、パウエル議長の後任に加えて、これまで利下げに積極的な姿勢を見せてきたボウマン副議長とウォラー理事を合わせて、FRB理事の過半数を抑えようとしているとみられる。しかし、パウエル氏が理事を辞めないとその席は空かない。クック氏が残留となれば、トランプ大統領が推す人物が、任期が2026年1月のミラン理事の代わりに理事になり、ボウマン副議長とウォラー理事を含めてもFRB理事7人のうち3人と過半数に満たない。FOMCの投票は、FRB理事7人と5人の地区連銀総裁(NY連銀総裁は毎年、その他は輪番)の12人であり、これも過半数にほど遠い。そうなると、米政権が望む利下げが実施される可能性は低くなる。刑事訴追が明らかになった直後、トランプ大統領は、パウエル氏の刑事訴追に対して距離を取った姿勢が報じられていた。いつも通りの話半分となるのか、それともさらにFRBに対する圧力を強めるか、不透明な情勢だ。
始まったばかりの騒動ではあるものの、米国内に加えて、海外中銀からもパウエル議長を支持する共同声明が発表されたことが注目される。この共同声明には、欧州中央銀行(ECB)に始まり、英国やスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、スイス、アイルランド、豪州、ニュージーランド、カナダ、韓国、インドネシア、ブラジル、南アフリカが名を連ねている。現状では国際金融システムの安定のためにドルの信認が不可欠であり、そのための中銀の金融政策の独立性が重要であるためだ。ただし、共同声明に署名した中銀の国を見ると、その他の分野で米国と対立・摩擦を抱えるところが少なくない。FRBと政治の問題は、内向きの米国の姿とともに、各国との摩擦状況を映しているようにも見える。
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