カザフスタン:トカエフ大統領の政治改革の全貌

2026年02月18日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
アントン ゴロシニコフ


はじめに

2026年1月、トカエフ大統領は大規模な憲法改正と統治体制改革の全体像を明らかにした。改正は憲法条文の約8割に及び、専門家の間では事実上の「新憲法制定」との評価も出ている。国民投票は3月に予定され、可決されれば7月に施行される見通しだ。

改革の骨子:統治体制の抜本的再設計

改革の中核は、上下二院制を廃止し、一院制議会「クルルタイ」へ移行する点にある。議員は完全比例代表制で選出され、立法手続きの簡素化と意思決定の迅速化が狙いとされる。同時に、副大統領職の新設や大統領人事権の拡大など、権力構造の大幅な再編も盛り込まれた。議会が大統領人事を繰り返し否決した場合の解散規定など、大統領の影響力を強める設計が目立つ。

 

また、従来の諮問機関を廃し、全民族・全地域を包含する「カザフスタン人民評議会」を新設する提案も注目される。国民の声を継続的に吸い上げる仕組みとして、政府は「耳を傾ける国家」を標榜する。一方で、表現の自由に新たな制限が盛り込まれたほか、国際条約よりも国内法を優先する方向への見直しが打ち出されるなど、「リベラリズムの後退」を指摘する声もある。

評価の分岐:「改革」か「権力集中」か

評価は二分している。支持派は、ナザルバエフ前体制の影響を払拭し、行政効率を高める現実的改革とみる。他方、懐疑派は、2029年の任期満了を見据えた「管理された権力移行」の布石であり、民主主義の実質的前進にはつながらないと指摘する。高インフレや実質所得の低下が続く中、政治改革が国民の生活改善に結びつくのか―その成否は、制度設計だけでなく運用の透明性にかかっている。

2029年以降を見据えた権力構造、ミドルパワー路線の行方

現行憲法では大統領任期は7年1期のみとされ、トカエフ大統領の任期は2029年に満了する。一方、新憲法の施行により現行憲法下の任期の扱いを巡る解釈論が生じ、理論上はトカエフ大統領の再出馬が可能になるとの指摘も一部で出ている。ロシアや中国に隣接するカザフスタンにとって、「ミドルパワー」としての国家路線は重要である。今回の憲法改正が制度的安定につながるのか、強権体制への接近を招くのかは、今後の政治運用に委ねられている。

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