脱炭素時代へのシフト
社長コラム
2021年05月31日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長住田 孝之(2025年3月末退任)
世界中で気候変動問題への関心が高まり、さまざまな取り組みや目標設定に関するニュースが毎日のように飛び込んできます。先々週は、IEA(国際エネルギー機関)が2050年CO2排出ネットゼロ社会の実現に向け、バックキャスト[*1]して必要な方策を列挙した工程表を示しました。その中で、これまでの方針を大きく改め、「今年から化石燃料の新規開発をゼロにする(必要がある)」との考え方を示した点は多くの人を驚かせました。そして先週は、エクソンモービルの株主総会で、投資会社が推薦した環境派の2人が他の機関投資家などの賛同を集めて取締役に選任されました。また、同じ日に、シェルに対してオランダの裁判所が「同社のCO2排出削減計画は不十分であり、より高い削減率を達成すべき」との判決を出しました。先のIEAの工程表と合わせて、特に石油業界としては、国際機関からも、株主からも、裁判所からも厳しいことを言われ、四面楚歌ともいうべき状況です。特に驚いたのは、シェルの裁判です。中世の「魔女狩り裁判」の時代とは違って科学的知見に基づく判断が行われるものと思いますが、今後、国や国際機関の政策と企業の活動と司法の関係がどのようなものになっていくのか注目されます。一方、株式市場は意外なほど冷静で、これらの企業の株価には大きな変動はありませんでした。当座の事業収益にある程度のマイナスの影響があっても、中長期的に環境に適合的な方向に経営の舵を切るようなプレッシャーがかかることについて、前向きにとらえる投資家が増えつつあるのかもしれません。ビジネスにとっては、変化を見極め、機会をとらえ、リスクを的確にマネージする戦略がますます重要な時代になります。
[*1]バックキャスト:将来予測の方法として、持続可能な目標となる未来社会の姿をまず想定し、そこから逆算してシナリオや作戦を考える手法。過去のデータや実績に基づいて積み上げ方式で将来を予測するフォアキャストとは逆の考え方といえる。
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