風吹かざれば・・・・・・.

2021年10月18日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 

 世界中で電力不足やガス価格の高騰が起き、「エネルギー危機」といわれるような状況が続いていますが、その一因にもなったのは、今年は北海で風が弱かったことです。風が吹かないと風車が回らず、発電量が減り、電力が足りなくなる。英国のケースでは、10年前には3~4割を占めていた石炭火力のシェアは今やゼロ。再生可能エネルギーとガス火力がそれぞれ4割程度なので、頼れる電力はガス。島国でガスを輸入するとなるとLNGがメイン。長期契約が多いLNGはスポット取引がそれほど大きくないことから需給が崩れて価格が急騰。一部の国では石炭にシフトしたことで石炭価格も上がり、全体的に電力は不足し、電力価格も高騰。コストアップで肥料産業などの工場閉鎖が相次ぎ、副生物のCO2も不足。炭酸飲料などの供給に支障が……。また電力需給への懸念から生産が減少したシリコンの価格も一気に数倍に上昇。といった具合に、危機が危機を呼ぶことになりました。言うまでもなく、シリコンの価格が上がると太陽光発電にも電気自動車にも影響が出ます。「風が吹けば桶屋が儲かる」とは逆のスパイラルにはまっています。

 

 北海の風は、一日中、一年中同じように強く吹き、そのため風力発電をベースロード電源として使えるということで欧州の強みと考えられていただけに、今回のような想定外の事象が大きくエネルギー市場を揺るがすことになりました。北海の風が変わるというのも気候変動の一つなのでしょうが、これからも続くのか、一時的なものなのかによって、今後の対応も大きく変わります。さっそくEUでは、フランスを中心とした10か国が「原子力はクリーンエネルギーである」という意見書を提出し、ドイツなどが反発しています。

 

 自然環境も自然観もそれぞれの地域で異なり、自然自体も変化する中、どのように共生しながらその恵みを享受していくか、という大きな視野でそれぞれのエネルギーを考え、そこにビジネスチャンスを見出していく。今回の危機はそんなヒントと教訓を与えてくれているように思います。

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