試される米国

2022年01月18日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 国内で与野党間の対立に加え、肝いりの歳出法案であるBuild Back Better法案では民主党の一議員の説得工作もままならず、新型コロナの感染状況の悪化やインフレ懸念など、厳しい状況のバイデン大統領。外交面でも、国内基盤の脆弱さを見透かすかのように、各国から揺さぶりをかけられ、試されているように見えます。

 

 まずはイラン。核交渉に復帰し、昨年11月から協議が再開されたものの、制裁の完全廃止など自らの主張が受け入れられない限り合意は急がないイランの姿勢に、米国も制裁の完全撤廃には応じられないことから、外交圧力を高め、暫定合意への道を探る。現状で失うものはないイランも、とりあえずは、あまり心配することなく暫定合意を考えようかという状況です。

 

 そしてロシア。ウクライナ国境に大規模な軍隊を集結させ、世界中から懸念が強まり、さすがに重い腰を上げた感のある米国。昨年12月来電話首脳会談を繰り返し行っていますが、ロシアの活動は収まる気配なし。侵攻すれば強力な経済制裁を行うと警告しているものの、軍事的な行動などの意図はなく、その本気度を試せたロシアの活動は勢いづいています。

 

 中国は、米国が関与した枠組みであるAUKUSやFOIP、QUADなどによる包囲網が強まる中で、米国の反応を試すかのように、台湾問題や香港のメディアへの厳しい姿勢などを続けてきました。ロシアのウクライナへの対応も参考にしていたと考えられます。そうした中行われた昨年11月の米中電話首脳会談では、両国が衝突することを避けるための「ガードレール」の構築をバイデン大統領が提案。中国にしてみれば、もちろん衝突は避けたいし、秋の党大会までは安全運転が必須であるだけに、一種の安心感を得て、今後当面は自らが考える「ガードレール」の中で活動し、その都度バイデン政権が試されることになりそうです。さらに、ここにきて北朝鮮がミサイル発射を繰り返して挑発。特に1月11日の発射の際には、本土到達を予想して、発射直後に米国西海岸の民間航空機の飛行を制限。結果的には、数分で取り消すという事態になりました。

 

 国内で難しい立場に立たされ、さまざまな国々からも試されるバイデン政権。厳しい1年になりそうです。

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