分断される世界とビジネス

2022年04月11日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 ロシアのウクライナ侵攻を機に、世界は「分断」されつつあります。制裁とそれへの対抗措置を通じてロシアやベラルーシが他と分断されているのは確かですが、西側諸国の考え方を他の国がみな支持しているわけではありません。今後どのような「分断」になるのかは、将来のビジネスを大きく左右します。3月2日の国連の対ロシア非難決議においても賛成したのは、7割強程度。4月7日の国連人権理事会におけるロシアの理事国資格停止決議については、賛成は約半分。例えばASEAN10か国では、フィリピン、ミャンマー以外は賛成していません。中国は前回が棄権で今回が反対、インドは2回とも棄権で、それもあって、人口や面積比では、賛成とそれ以外とであまり変わらないというのも事実です。

 「分断」は、東西冷戦の終結以降進展した地球規模でのグローバリゼーション、それによる経済活動の徹底した効率化の前提を大きく変えることになります。マクロ的には、さまざまな地域、品目で需給の不均衡が顕在化します。今回のケースでは、供給国としてロシアの存在感が大きいエネルギーや食糧がその典型です。また、物流も大きな制約を受け、今までだったら届いたはずのものが、同じ時間では届かないので、それも需給の不均衡を拡大させます。また、例えば半導体の露光過程で使われ、ウクライナのシェアが大きいネオンガスのような物品が、サプライチェーン全体をリスクにさらします。これらはいずれもインフレを加速させる結果になります。もちろん、分断によって売り先を失った品物が、闇ルートで安く供給されたりすることにもなりますが……。こうした「分断」の下では、経済的には、自給自足的な動きが加速しそうです。例えばエネルギー分野では、その地域の自然条件を踏まえた再生可能エネルギーへの依存度が、脱炭素の文脈も相まって、ますます高まる。製造業ではサプライチェーンをできるだけ短くする努力が行われる、ということになるでしょう。

 仮に停戦が合意されるとしても、バイデン大統領の発言からも推察されるように、プーチン大統領が権力の座にとどまる限り制裁は続き、ロシア寄りの国に対象が拡大することもあり得ます。「分断」は継続し拡大する可能性があり、それを前提に、あわせてインフレのようなマクロ環境変化も頭に入れて、難しくなるビジネスと必要になるビジネスを見極めつつ、これからの戦略を構築する必要がありそうです。

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