サステナビリティ関連情報の開示ルール

2022年05月31日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 これまで企業の会計基準を策定してきたIFRS(国際財務報告基準)財団が昨年11月に新設したISSB(国際サステナビリティ標準理事会)の下、3月末にサステナビリティ関連情報の開示の標準案を示しました。7月末までの意見募集を経て、年内にも成案とする考えのようです。この案のコアの部分は、投資家等の主たるユーザーが企業価値を評価するのに有用な(サステナビリティ関連の)情報の報告を求めるということです。そして、その企業価値は、「時価総額+ネット負債」と定義されています。わからないではないのですが、こう書かれると、企業価値という言葉が財務的なものに焦点を当てた静的なもののような印象を受けます。本来、この企業価値の定義の中でも大宗を占める(であろう)時価総額とは、企業が将来どのような価値をどれだけ生み出すかについての投資家等の評価の総体です。評価は投資家等の判断に委ねられるとしても、投資家にとっても企業にとっても、将来どれだけの価値創造ができるかが最重要なのであり、この点が明確に説明されるとこの標準案も納得感が増えるでしょう。財務的要素に加えて非財務的な要素を活用した企業独自の短中長期の価値創造のやり方に焦点を当てた統合報告の枠組み作りに関与してきた者としては、この基本的な発想が共有されること、それによって世界最大の統合報告発行国である日本企業が強みを活かせることを楽しみにしています。

 

 また、見逃してはならないここ数年の大きな変化は、投資家等が評価する企業が将来生み出す価値には、財務的な価値だけでなく、社会的な価値、環境的な価値も含まれるようになってきたことです。したがって、投資家等にとっても、企業が、どのような価値を、どのようなビジネスモデルで、どのような企業固有の非財務要素を含むリソースを活用して生み出すのかを見極めることが重要になってきています。企業もこの点を明確にし、投資家等もそれを理解した上で評価すれば、サステナビリティ関連情報の開示が真に意味のあるものになるでしょう。

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