欧州とウクライナ、中国

2022年07月13日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 前号の米国に続き、今回は欧州に出張し、特に興味深く感じた点を紹介します。

ウクライナでの戦闘開始から4か月以上が経過し、支援をしてもなかなか戦況が良くならないこと、食糧やエネルギー価格の高騰に端を発するインフレで国民生活が苦しくなるとともに、リセッションへの懸念も増大し、財政的余裕もなくなりつつあることから、欧州各国では次第にウクライナ以外の問題に関心がシフトしつつあるようです。

 

 もちろん国によって違いはあります。ドイツの一部の人は、「武器が売れる米国、エネルギー価格高騰で結局は潤っているロシア、ロシアから安値でエネルギーを輸入する中国・インドなどと比較して、欧州だけが損をしている」と言います。フランスではマクロン大統領が「欧州の問題は自分たちが解決する」との強い意欲を示しています。制裁による自らの痛みや冬に向けたエネルギー確保への懸念も含めて早期停戦に比較的前向きな独仏に対して、対ロ強硬路線をとるのが英国ですが、その英国でも、ウクライナ問題よりインフレや国内政治への関心が高まっているようです。

 

 中国に関しては、ウクライナ紛争以降、懐疑論が強まり、実質的な中国への投資制限を促す法律ができたり、人権分野で従来よりも厳しい姿勢になったりしています。それでも、米国ほど中国に対して敵対的ではないようで、エネルギートランジションや生物多様性では協調可能と考え、G7の合意における対中国の厳しい文言も欧州の意思というより米国への配慮との解説もありました。個々の国をみると、EEZ(排他的経済水域)の多くを太平洋に持つフランスは、ソロモン諸島での中国の動きに危機感を強め、インド太平洋戦略に注力している一方、ドイツは自動車の部品供給や製品市場において中国のシェアが4割もあり、そちらを重視しています。そうした欧州に対し、逆に中国側から見ると、「欧州は米国へのカウンターとしての政治的価値があるというのが一貫した見方で、中国は欧州内部での考え方の違いを突いて中南欧の切り崩しを図っている」と現地コンサルタントの中国人が言っていたのは印象的でした。

 

 日本人は、欧州が強調する理想論、理念論に着目してポジティブな印象を持つことが多いですが、現実的に、戦略的に、かつ、ある意味柔軟に戦略を変えていく欧州とその各国のありようを、美化せずに正確に認識する必要があると感じます。

 

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