水~洪水と渇水~

2022年08月23日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 

 昨年は欧州で風が吹かず、世界的なエネルギー危機の引き金を引きました。今年もあまり欧州の風の状況は芳しくないようですが、特にこの夏は世界中で水に関する話題を多く耳にします。日本でも8月に入って東北北部や北海道で記録的な大雨となり、多くの被害がありました。中国からも、北部で洪水のニュース・映像が多く届きました。直近ではパキスタン・バングラデシュ・インドなどでも豪雨で多くの死者が出ています。

 

 一方で、欧州と中国の中部では渇水も深刻です。ドイツではライン川の水位低下で、船による物流に影響が生じています。英国の一部の地域でも異常高温下での水不足から、8月12日には4年振りに干ばつを宣言。また、欧州各国では山火事も深刻化しインフラにも影響が出ています。中国の中部では高温と少雨が継続。揚子江流域の四川省では水不足が深刻になっています。中国全体では水力発電への依存度は約15%(石炭火力が7割超)ですが、四川省では約8割。高温による電力需要増もあいまって、電力供給に支障が出ており、半導体・自動車関連産業などの活動への影響が懸念されます。また、揚子江の安徽省安慶市と湖南省岳陽市の間(武漢などを含む)では、海・川の直航船の運航ができなくなっています。

 

 降雨の局地化・激烈化と、渇水、猛暑と山火事。いずれも気候変動と関係が深いと思われます。それらは、河川や山火事を通じて物流を寸断させたり、水力発電能力を低下させてビジネス活動を一部停止に追い込んだり。従来は、水害などによる被害額(保険金支払額)の増加を通じて特に損害保険会社が深刻に感じていた「気候変動リスク」も、いよいよ多くの企業・産業にとって現実のものとなってきました。もはや「異常気象」ではなく、こうした新しい常態を前提とした、機敏な情報収集、新しいリスクマネジメント、さらには、ビジネスそのものの変革が求められることになります。

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