陰謀論
社長コラム
2022年10月26日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
世界が激しく動き、把握するだけでも大変という印象が特に強い2022年。なかでも地政学的な動きは、理解するのが難しく、時間がかかるのに、それをじっくり考える間もなく次の大きなイベントが起きています。こうしてさまざまなことが起き、不安が高まり、先が見えないようなときに幅を利かせるのが、いわゆる「陰謀論」的な議論です。
ある出来事の「本当の原因」と称して、ある事象が誰かのたくらみで起きていると解説したり、その流れで次に起きることを予測したり。起きている事象が複雑な背景を持ち、利害関係者も多いだけに、なるほど、とわかった気になる人も多いのがいわゆる「陰謀論」的なアプローチです。東西冷戦の時代にもたびたびこうした陰謀論が展開されましたが、発信源は欧米や中東などが多いです。平和国家日本、日本人には、島国で陸の国境を接している国がないからか、性善説だからか、国家をまたぐような策略、という発想があまりありませんが、世界には、これでもか、というほど謀略を巡らせるのが得意な人がいるように思います。
直近では、ウクライナ紛争をめぐり、さまざまな陰謀論的解説が出ています。また、陰謀論かどうかはわかりませんが、習近平政権の3期目が決まり、忠実な人たちだけを登用した新体制がスタートしたことで、中国の台湾併合の時期が早まったという議論が特に米国で増えています。確かにバイデン大統領が外交面で弱腰だとの見方は多くあり、それに辟易している人たちにとってみると、中国が軍事的行動に出るリスクを喧伝することは合理的です。備えは増強できるし、バイデン大統領への警告にもなるし、ロシアのウクライナ侵攻直前のリークのように、さまざまな面での準備もできるでしょう。一方で、中国はあくまで武力を用いずに統一を実現することを優先していて、習氏に早期に軍事行動に出る意欲や理由や勝算はない、というのが中国ウォッチャーの多くの人の見方です。
陰謀論的な議論が広がると、当事者がいつの間にかその気になってしまうリスクがある反面、過激な行動を自制させる効果を持つこともあり得ます。国と国の関係は、利害関係者も多いだけに、特定の情報に踊らされるのではなく、ますます複雑・難解になる世界情勢を複数の視点から観察し、把握しながら、発生確率を意識しつつ複数のシナリオを想定しておくことの重要性が高まっています。
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2023年12月4日(月)
金融ファクシミリ新聞・GM版に、当社シニアエコノミスト 片白 恵理子が寄稿しました。 - 2023年12月1日(金)
日経CNBC『World Watch』に当社シニアアナリスト 石井 順也が出演しました。 - 2023年12月1日(金)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2023年11月29日(水)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2023年11月22日(水)
雑誌『経済界』2024年1月号に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司が寄稿しました。