経済安全保障

2022年11月16日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 このところ、「御社は経済安全保障にどのように対応していますか?」という質問を受けることが増えています。安全保障貿易管理やエネルギー安全保障などの経験があっても、一瞬で答えるのは難しい問いです。なぜ難しいのか考えてみると、経済安全保障の定義が確定しておらず、質問自体の内容が曖昧で、質問している方も、何に焦点を当てて聞きたいのか明確に認識できていないことが多いことに気づきました。そこで、質問者に、「経済安全保障としてどのような範囲を考えて質問していますか?」と聞いてみました。逆質問でびっくりする人が多いので、「一般的な地政学リスクの当社ビジネスへの影響と対応のことですか?ロシアやミャンマーへの制裁に関することですか?今年成立したいわゆる経済安全保障法(経済安全保障推進法)への対応のことですか?エネルギー安全保障や食糧安全保障のことも含みますか?」とより具体化してみます。すると、経済安全保障法のことがメインであるものの、何となくもう少し広く、というのが大方の質問者の関心です。

 

 ちょっと長くなりますので、今回は経済安全保障法の話に絞ります。経済安全保障法においても経済安全保障の定義はなく、「国家そして国民の安全を経済面から確保する」というのが担当大臣の国会答弁における説明です。この法律では、サプライチェーンや先端技術に関するルールを新たに設けていますが、食糧やエネルギーの安全保障は対象外なので、経済安全保障の中の一部のみを対象にしています。また、この説明からも明確であるように、他の「安全保障」と同様に、経済安全保障は、国としての安全保障です。中国を念頭に置いているとよく言われます。

 

 企業にとってみれば、この法律が新たに作る義務は順守し、機会は活用していくことが必要な対応です。具体的に講じられる施策の中身は、国の経済安全保障という観点から推測しながら対応することになるでしょう。国として確保すべき安全保障とそれを意識、認識しながら企業として戦略を立て、リスクマネジメントを行っていくこと、一部共通部分もありますが違いもあります。企業としての対応の軸を明確にすることが重要です。

 

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