生物多様性

2023年01月13日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 先月、カナダのモントリオールで2週間にわたり、生物多様性条約の第15回締約国会議(COP15)が開催されました。一昨年、昆明でCOP15のプロセスが開始されてから、約1年2か月で合意に至りました。具体的には、4つの2050年目標と23の2030年目標や「ネイチャーポジティブ」(2020年よりも自然が回復している状態)を目指すことが合意され、これらが今後の国や企業の目標設定における指標となります。気候変動に関するTCFD(気候関連財務情報開示のタスクフォース)の枠組みと同様に、今年9月に最終提言が公表される予定のTNFD(自然関連財務情報開示のタスクフォース)の枠組みが企業の開示ルールに発展していくことが予想されます。

 

 今回合意された目標は、2030年までに海と陸の生態系の最低30%を保全・復元、侵害的外来種による侵入と定着の50%削減、食糧廃棄の50%削減、2030年までに年間300億ドルの先進国から途上国への資金拠出などが含まれています。これらをどう具体化していくのか、温暖化のケースのような根拠があるのか、など不透明な部分も多々あります。より心配なのは、欧州主導のこうした考え方の裏側に、自然は人間がコントロールできるもの、という考え方が透けて見えることです。日本人にとっては、自然は尊敬や畏怖、信仰の対象であるのと大きく異なります。人間が存在し続ける以上、それが自然と共生することでしか生物多様性の問題は解決できないものです。上から目線ではいけません。そして、そのソリューションとして期待されるのは、「サーキュラー社会、サーキュラー経済」の実現です。まさに「共生」の具体化として、いかに自然・生態系に負荷をかけずに、また回復の努力をしながらモノやサービスがまわっていくか、そういう社会を作れるか、という点が本質です。その実現において、日本の得意な製造業のノウハウは大いに役立ちます。それを活かしながら、この問題の解決に先手を打ったビジネスを進め、それが適切に評価される仕組みにしていくことが、日本企業にとっても生態系全体にとっても、その持続のために欠かせないことです。

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