銀行不安

2023年03月20日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 

 インフレと金利の動向が注目の的だった世界経済ですが、2週間前から金融システム不安が急に主役となりました。金利の上昇、債券価格の下落により保有資産が目減りし、3月8日に増資等の措置を株主に通知した米国のシリコンバレーバンクは、翌日には株価が60%下落し、取り付け騒ぎへとつながり、10日には米国の銀行では史上2番目の規模の破綻となりました。また、仮想通貨業界の資金を多く扱っていたNYのシグネチャーバンクも、12日に閉鎖。連邦政府等は極めて素早く対応し、週末のうちに両行の預金の全額保護を発表しました。両者の関連性は低く、連鎖するものではないという見方も多く、翌週の3月14日には市場も少し落ち着いたように見えました。

 

 しかし、今度は欧州で、かねてから経営不安のあったスイスのクレディスイスに関し、筆頭株主のコメントに関する記事のうち、「追加出資しない」と発言した部分を切り取った形で情報が拡散され、3月15日には一気に株価が20%以上下落。この事態を受けて、スイス国立中央銀行が急きょ支援を決めて収拾をはかり、UBSが株式時価総額を大きく下回る30億スイスフラン(日本円で4,300億円)で買収するということになりました。ただ、世界の銀行をめぐる不安は止まらず、米国の地方銀行が格下げされ、当局が慌てて支援を発表するなど、目まぐるしい展開になっています。

 

 特徴的なのは、実質的な関連性はないのに、ソーシャルメディアを通じて銀行の信用不安に関連する話題が沸騰し、不安の連鎖が作られるような、新しいタイプのリスクが顕在化していることです。それらに対する政府や中央銀行の対応の素早さも大したものですが、深刻さの裏返しでもあります。確かに、昨年末の「2023年の見通し」でも指摘したように、金利が上昇した後にショックイベントが起きるという歴史は繰り返しているだけに、大きな危機にならないよう、今後も迅速な対応が当局には引き続き求められます。

 

 企業においても、出資先や取引先を含め、グローバルな活動の中で様々な銀行との関係があり、銀行の経営不安、そして今回のような新しいタイプのリスクへの備えに神経を研ぎ澄まさなければならない状況になりました。

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