GXにおける欧米VSアジア
社長コラム
2023年04月12日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書は、既に地球の気温は1.1度上昇し、1.5度目標に向けたカーボンバジェットは残り少なく、目標の達成のためにはさらに取り組みを加速することが不可欠、と主張しています。温暖化対策が一刻の猶予もなく、早く行動しなければならないことは、多くの人が共通に感じていることです。世界が一つの政府だったら、規制を含むルールや助成措置を使ってそれを実現できるのでしょうが、世界は国々の集まり。実践はそれぞれの国がどう行動するかに大きく左右されます。特に注目されるのは、今後も人口が増大しエネルギー消費が増えるアジア。日本のアプローチは、それぞれの国の現状を踏まえ、既存のインフラも活用しつつ、段階的に新しい仕組みへの移行を進めることです。それぞれの国が、国民の生活や国の産業を考慮した上で納得づくで移行プランを作り、内発的動機で実践しない限り、スピードも出ないし実効性も上がらないものです。
これに対し欧米は、とにかく化石燃料は止めて、直ちに再生可能エネルギーに変えるべし、というアプローチです。それぞれの国の生活や産業の状況にかかわらず、彼らが最善と考える方法でGX(グリーントランスフォーメーション)を進めようとする。果たしてそのやり方で効果が上がるのか、持続的なのか、アジアの産業や人々の生活が犠牲になってしまうのではないか、など多くの疑問があります。しかし、欧米の有識者と議論しても、残念ながら共通の理解には至りません。現状に関わらず一足飛びに新しいシステムに移行することが近道だ、と心底思っているようです。過去の歴史や先に発展したエリート意識のようなものが関係しているのでしょうか。
各国の現実を踏まえた対応がアジアのGXの近道と思われますが、欧米の方々は、それはGXの取組を遅らせる言い訳としか考えないようです。また、日本のような実践的アプローチは、世界のNGOも含めて批判の的にされやすい。何とももどかしいところです。より早くアジアでのGXを実現するために何がベストか、世界と認識を共有できる状況をいち早く作り出さないと、結果的にアジアの人たちが不幸になり、さらに温暖化対策の実効を上げることが遅れてしまいます。アジア諸国と、そして官民で協力して困難を乗り越えるために、日本、日本企業の出番です。
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