中国と欧州
7月初めの欧州出張に際し、さまざまな人・組織との対話を通じて、改めて中国との向き合い方についての欧州の現実に触れることができました。一言でいうと、一枚岩ではないがしたたかだ、ということでしょう。中国経済の動向が与える影響は、中国への依存度が低い英国やフランスでは小さく、ドイツやイタリアでは大きい。ただ、中国経済においても消費財分野は回復しつつあることで、それらの国々でも影響がある程度抑えられています。総じていえば、中国経済よりも米国のインフレ抑制法(IRA)の方が大きな懸念だし、より深刻な問題は、ウクライナ、インフレ、社会不安ということのようです。特に対中依存度が高いドイツは、既に中国の企業かといわれるようなフォルクスワーゲン(VW)社をはじめ中国への投資残高が大きく、撤退する選択肢はない状況です。センシティビティの低い化学産業などを含め中国で大きな存在となり、今後も大きな投資が計画されています。そんな中でドイツは、先般新たに対中戦略を策定し、過度な依存を回避するという点で方針転換しましたが、経済関係の維持が前提です。将来の台湾有事においても、サプライチェーンは止められないと、ドイツのシンクタンクが主張しているのは印象的です。
悩ましいのは、世界的な電気自動車(EV)化の流れをはじめとする温暖化対策関連でのビジネスにおける中国依存にどう対応するかです。ドイツなどは、中国からの太陽光発電(PV)やEVの投資を歓迎し、15年前に欧州が中国で経験したような技術移転と雇用創出を期待するという考えのようで、これはちょっとびっくりです。一方フランスは、市場経済国でない中国からの輸入について、市場経済国価格対比でアンチダンピング課税を行うことも選択肢としています。
そのフランスも政治面では、今月行われたNATO首脳会議が中国への厳しい姿勢を示す中、NATO東京事務所の設置に反対して中国への配慮を示すような姿勢がみられました。政治面での対中強硬派は、ロシアに対する姿勢を忘れない東欧諸国ですし、欧州全体としては中国の人権問題を厳しく批判しています。ただ、人権批判は、「政治的ゲインをタダで得られるからであり、実際のアクションはない」との欧州の人の見方を聞けたのは印象的でした。第三国とのジョイントベンチャー(JV)を通じて海外展開を図ろうとする中国もしたたかですが、欧州も十分にしたたかです。彼らが考えた「デリスキング」という考え方も、そうしたある意味柔軟な、実利的な側面が強いともいえます。重要鉱物についての中国依存の回避のための内製化や調達先の多様化などにも注目しつつ、欧州の本音を見極めながら、日本企業もしたたかに行動する必要があります。「台湾有事」のリスクが持つ意味が欧州とは大きく異なる点には留意しないといけませんが。
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