物価と為替
社長コラム
2023年08月22日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
夏休みを海外で過ごされた方もいらっしゃると思いますが、これまでのインフレが物価水準を大きく上昇させ、サービス価格も上昇し、さらにそれを円に換算すると愕然とする、と感じる機会も多かったかもしれません。これまでの物価変動、為替変動の集大成を実感、というところでしょうか。各国での金利引上げの影響もあり、インフレ率の動きはだいぶまだら模様になっています。米国のインフレ率は、6月以降は前年同月比3%程度に落ち着いてきており、7月で11か月連続3%超となった日本のインフレ率を下回る水準になってきました。欧州も2桁のインフレが続いていましたが、現在はユーロ圏では5%台にまで低下。中国の7月の物価は2年5か月ぶりに前年同月を下回り、マイナス0.3%となりました。インフレ対策の金利引上げも最終局面です。6月に11会合ぶりに金利を据え置いた米国は、7月は再度利上げで、利上げ幅が累計5.25%となり、利上げはあと1回あるかないか、という状況です。欧州は7月で9会合連続、累計4.25%の利上げとなり、こちらもピークが見えてきました。日本では、7月末にイールドカーブコントロールの柔軟化が決定され、金利上昇をある程度容認する方向のようです。この金利水準の違いが為替変動の主な要因となり、結果として、円安傾向が継続し、日本人にとって海外の物価がますます高く感じられる状況になっています。一方で、夏休みには海外から多くの人が日本を訪れ、「何でも安い」と喜んでインタビューに答えている様子が報じられていました。中国からの団体旅行も解禁され、日本への来訪者数がコロナ禍前の水準を超えるのも時間の問題。海外の人による「日本買い」は増加しそうです。
ビジネスにとっての機会とリスクも、こうした動きにつれて時々刻々と変化します。それを織り込んだ作戦が必要です。
国内でもリッター180円を超える看板が目立ってきたガソリン価格をはじめ、さまざまな値上げが迫ってきています。確かにインフレを反映した賃上げは実施されているものの、インフレ率以上には上がっていない、つまり、実質賃金が下がっていて、これが負担感につながります。米国のように実質賃金が上昇すれば、健全なインフレと豊かさの実現が両立するのでしょうが、日本では、まだその状況にはありません。人口減少の中での持続的インフレは容易ではなく、米国とは異なる道を歩むことになるのかもしれません。
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