フィリピン経済の現状(15年8月)

2015年08月26日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
大西 貴也


◇ 内需

 GDPの約7割を占める民間消費は過去3年間四半期ごとに見ると、前年同期比平均5.9%増加と堅調に推移している。特に自動車販売台数は2015年6月まで19か月連続で前年同月比2桁増(平均26%)と好調な売れ行きが続いている。これらはサービス業の成長、特にBPO(Business Process Outsourcingセクター)、及び、海外労働者送金に支えられている。米国利上げによるペソ安は送金額増となり、民需の押し上げ要因となる。輸入は輸出ほど落ち込んでいない事からも、内需が強いと言えよう。なお、インフレ率は干ばつの影響による食料品の値上がりの下でも低く維持されており、この点も民需の押し上げに寄与すると思われる。フィリピン中銀は、2015年後半に物価上昇が加速したとしても、インフレ率は政府目標の3%以下に維持可能な水準と発表した。

 

 

◇ 外需

 中国への依存度が大きくない(2014年の仕向け国別輸出金額第3位。輸出全体の12.9%)ため、中国の景気減速の影響は他のASEAN諸国に比べ小さい。ただし、エルニーニョ現象による干ばつの影響を受け農産品の生産は低下し、製造業も打撃を受けているもようで、輸出先の景気減速よりも国内の供給力不足の問題で輸出金額が減少している。米国や欧州からの需要が引き続きけん引し、日本も2015年後半には回復する可能性がある。

 

 

◇ 投資

 直接投資(FDI)は2011年以降毎年増加し、2011年に20億ドルだったものが2014年には62億ドルと、4年間で3倍にまで増えているが、2015年に入ってから減速している(1~5月で前年同期比42%減)。民間投資についてはミンダナオ和平の実現や自動車振興策を追い風に好調を維持すると思われる。公共投資についてはインフラ投資予算が積み増しされたが、執行が遅れており、ODAプロジェクトなどにも影響が出ている。

 

 

◇ 海外労働者送金

 フィリピンはGDPの約15%、民間消費の約20%が海外労働者送金で賄われているという特徴がある。これは、国内に人口増加に見合う雇用創出がない事(失業率7%台は主なASEAN国の中で高い)、フィリピン労働者が相対的に高い教育水準(特に英語能力)を保有している事、フィリピン政府が在外労働者支援を行っている事などが理由と言われている。なお、海外労働者送金は国際収支において、経常収支の改善に大きく寄与しており、第2次所得収支の大部分を占めている。規模的には直近1年間の海外労働者送金額は経常収支の実に1.8倍にも及んでいる。

 

 今後について、外需は国内供給体制の問題で弱含み、投資も不調だが、堅調な内需が支え、成長率は政府目標(7~8%)の下限近辺には達する可能性がある。

 

 

寄与度別GDPと伸び率
(出所:フィリピン国家統計調査委員会より住友商事グローバルリサーチ作成)
経常収支と海外労働者送金額
(出所:フィリピン中央銀行より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。