続く世界の低成長

2015年10月08日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行

 10月6日、IMFは世界成長見通し(WEO)を公表した。第2章「一次産品輸出国はどこへ向かっているのか」、第3章「為替相場と貿易:関連性は途絶えた?」は既に公表済みで、今回は数字を含めた「現状分析と見通し」についての発表だった。

 

 2015年の世界経済成長は前回4月公表時に比べ0.4%ポイント引き下げられ実質GDPベースで3.1%となる見通し。「世界経済の回復は引き続き緩やか」としているが、この成長ペースは金融危機後最低であり、発生時の2008年とほぼ同等のペースへの減速である。2016年の成長見通しも3.6%(4月公表3.8%)へと引き下げられており、4年連続で3%台の成長にとどまる見通し。

 

 アジア通貨危機、エンロンショック、ITバブル崩壊などネガティブな出来事に見舞われた1997年から2006年までの平均成長率ですら4%だった。それを下回る成長率にとどまっており、2012年以降の世界経済は「長期停滞」していると言える。さらに、今年の場合は米ドル高の進行により殊更「閉塞感」が漂う。IMFは市場価格に基づき換算した米ドル建て名目GDPを同時に発表した。それによれば、2014年に77兆2690億ドルだった世界の名目GDP総額は今年、73兆5070億ドルへと縮小すると見込まれている。この縮小幅は3兆ドル余りで金融危機時を上回る規模(3兆3310億ドル)であり、英国やフランスの名目GDP金額に匹敵する金額規模になる。

 

 貿易数量については新興国の輸出、輸入がそれぞれ下方修正された。特に輸入が前年比1.3%と昨年実績の3.6%から大幅な低下が見込まれている。金額ベースであれば資源価格低下の影響と結論付けられるが数量ベースであり新興国の経済活動が想定以上に鈍っている。この原因は中国経済の鈍化や米ドル高による交易条件の悪化によるとされている。

 

 物価について先進国では年内は資源価格下落の影響から非常に低水準(0.3%)となる一方で、新興国ではドル高の影響もあり、昨年実績よりも高い5.6%(2014年5.1%)まで上昇する、と見込まれている。

 

 年初は「油価下落により実質的な所得が底上げされ、消費が活発になり乗数効果を通じて成長が加速する」と期待されていた。しかし、実現したのは先進国のごく一部だけにとどまったようだ。資源国からの所得移転はエネルギー補助金の削減を通じ、結果として消費国政府の債務穴埋めとなっただけなら無論所得効果は実現しない。さらに、最大の石油輸入国であった米国が産油国化したことや中国の景気減速が資源国の輸出停滞を招いたことで、資源国の個人所得や政府歳入の減少を通じて輸入が減速している。実体経済面で負のスパイラルに陥っているとみられる。そして、補助金削減に伴い、エネルギーの価格変動の影響を消費者がこれまで以上に受けやすくなってしまったことによる物価上昇が成長を阻害しやすいという不安定な状態を生み出している。産油国ではあるが石油製品を輸入しているブラジルでスタグフレーションが発生しているようにこうしたリスクは拡大し、高まっているとみられる。リスクの増幅は通貨売却を促しマネーの面でもドル高(自国通貨安)を助長しており、こちらも負のスパイラルに陥っており、字面以上に非常に厳しい局面が続いている。

 

IMF WEO October 2015
(出所:IMF WEO Oct 2015より住友商事グローバルリサーチ作成)
IMF WEO October 2015
(出所:IMF WEO Oct 2015より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

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