インドネシア経済の現状(2016年5月)

2016年05月26日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
大西 貴也


 

 2016年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比4.92%と、前四半期から減速した。以下、需要項目別にGDPの内容を確認し、次いで、消費について詳しく見ていきたい。

 

 

 内需

 個人消費は前年同期比4.94%と前四半期とほぼ同水準。16年は原油安や燃料販売価格の低下により低インフレが続く見込みである事、1~3月の会合で中央銀行により連続して利下げが行われた事(合計0.75%)、小売売上高指数は2桁成長が15年12月以降5か月連続している事、消費者信頼感指数(18都市4,600世帯対象)は直近半年間連続で基準値(=100)を上回っている事や2月時点の失業率が5.5%に改善した事などから、個人消費は今後も底堅く推移する事が期待される。ただし、15年の自動車販売は前年比マイナス16%と低迷している事から、先行き楽観視できない。

 

インドネシアGDP(出所:インドネシア中央統計庁より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

インドネシアCPI(出所:インドネシア中央統計庁より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 外需

 米国や中国経済の低迷、及び、資源価格の低下により輸出が伸び悩んだ事から純輸出のGDPへの寄与度は0%となり、前四半期から低下した。特に15年を通して32.7%減少した石油・ガスの輸出金額は16年1月も前年同月比36.7%減少しており、引き続き低迷している。世界経済や資源価格の見通しは不透明なため、外需が短期的に改善する事は考え難い状況ではあるが、欧米や日本で回復が見られれば上振れ要因になり得る。

 

 

 投資

 政府消費支出は前期の7.31%から2.93%へと大幅に低下し、総固定資本形成も6.90%から5.57%に減速した。15年9月以降12度にわたり発表された景気刺激策や公共投資事業において本格的な着工が相次ぐ見通しである事から、今後の投資拡大が期待できる。一方、土地収用や関連法案整備の問題、及び、税収の落ち込みによる予算不足が今後の課題となるであろう。

 

 消費は強めではあるものの外部環境は悪化しており、インドネシア経済も楽ではない。政府目標達成のハードルは高い。

 

 

 個人消費の内訳

 個人消費の内訳項目を前年比成長率で比較する。個人消費としては16年3月期4.94%と前期(15年12月期)より増加幅が微増しているが、内訳を見ると項目によって大きな差が生じている。外食・宿泊、輸送・通信の2項目は増加幅が拡大したが、保健・教育、食品・飲料、被服・履物、家庭用品、その他の5項目は増加幅が縮小している。

 

インドネシア個人消費・内訳(出所:インドネシア中央統計庁より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

インドネシア個人消費・内訳(出所:インドネシア中央統計庁より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 次に、小売売上高指数の内訳項目を前年比成長率で比較する。小売売上高指数としては2015年12月以降2桁成長が5ヶ月連続しているが、こちらも濃淡がある。2015年12月から16年4月にかけての傾向として部品・アクセサリー、自動車燃料、情報・通信機器、家庭用品、文化・娯楽は上昇、飲食品・たばこは横這い、その他(被服含む)は下落している。

 

インドネシア小売売上高指数・内訳(出所:CEIC Data Company Limited, インドネシア中央銀行より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

  個人消費の中でも家庭用品、被服・履物、飲食品・たばこ、及び、自動車燃料が伸び悩んでいる。自動車燃料は市況価格の低迷、飲食品・たばこは低インフレ、がそれぞれ継続する事からいずれも上昇は見込み難い。家庭用品、被服・履物の2項目における売上回復が今後の個人消費の更なる成長のカギを握るものと思われる。また、携帯電話(情報・通信機器)や娯楽への支出増加から、消費構造に変化が起きている事が推測される。

 

以上

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