中国 エネルギー第13次5か年計画について

2017年02月03日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子


 

◇総括

 

 中国国家発展改革員会は、1月にエネルギー第13次5か年計画(2016~20年)を正式公布した。計画期間を1年過ぎての最終発表となったが、前回計画(2011~15年)が東日本大震災や中国の経済発展モデル転換などの影響でエネルギーの需給動向見極めに時間を要し、2年も遅れたことに比べると早い発表となった。内容は、前回同様クリーンエネルギーの利用とエネルギー効率・品質の向上を促進し、一次エネルギーに占める化石燃料の利用を減らすもの。

 

 

◇一次エネルギー消費について

 

 今回の特徴は、2020年の一次エネルギー消費量に上限を設けたことにある。これまでも、一次エネルギー消費量の目標値は設定されてきたが、数値達成よりも経済成長を優先する意向が強かった。だが、今回政府は2020年の一次エネルギー消費量50億標準炭換算トンは、下限値ではなく上限と明言しており、消費伸び率も引き下げた。達成にあたり重要な役割を果たすのが、拘束性項目に位置付けられているGDP当たりのエネルギー消費量だ。拘束性項目は、政府主導で必達が求められる基準で、政府はGDP当たりのエネルギー消費量を2015年比15%削減し、エネルギー効率を改善することで消費の伸びを抑制できるとしている。また、昨今の石炭消費の減少や重工業からサービス産業への移行を踏まえても、消費総量50億トン以下は達成可能な数値と考えられる。

 

 

◇クリーンエネルギーの利用促進

 

 エネルギー総量は抑えるものの、環境に優しい非化石燃料や天然ガス消費は促進する計画で、5か年におけるエネルギー需要の伸びの68%を非化石燃料と天然ガスが占める見通し。非化石燃料については、一次エネルギーに占める割合を15%とする目標を拘束性項目として掲げ、発電分野における再エネ・原子力発電容量の増強を図ることで実現する方針となっている。一方、石炭消費については、エネルギーミックスに占める割合を2015年実績の64%から2020年には58%以下に引き下げる目標としている。

 

 天然ガスは前計画期間で消費量が未達となった唯一のエネルギーだが、今回も消費伸び率13.3%、エネルギーミックスに占める割合は2020年に10%と比較的高い目標が置かれている。政府は、天然ガス発電および輸送分野(CNG、LNG車両)での需要を伸ばすとしているが、課題としてパイプラインや貯蔵施設など効率的な輸送インフラの欠如、他のエネルギーに比べると割高な天然ガス価格を挙げている。このため、第13次5か年期間中に輸送インフラへの第三者アクセス、パイプライン網の整備、天然ガス価格決定方式の変更が進められる見通し。

 

 なお、環境改善の観点では、拘束性目標である単位GDP当たりCO2排出量、汚染物質排出量の目標値がいずれも前回計画より厳しくなった。前5か年において数値目標を達成できたことに政府が自信を強め、さらに環境問題に注力する姿勢がうかがえる。

 

 

エネルギー消費、エネルギーミックス(出所:中国国家発展改革員会より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

省エネ・汚染物質削減(出所:中国国家発展改革員会より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇石油・天然ガス生産

 

 2020年の原油生産目標は2億トン(約日量400万バレル)と、前計画の目標値2.15億トンから7%減少する内容となっている。中国の原油生産は、高コストの老朽化油田が中心で、原油価格が安いなか生産者が投資を控えていることもあり、2016年1~11月の生産実績は前年比6.9%減の1.8億トンと目標値の2億トンを既に下回っている。中国における新規油田開発が限られるなか、生産量が大幅に回復することは想定できず、むしろさらに生産量が減少する可能性もある。

 

 天然ガス生産は、在来型・非在来型ともに拡大する方針を掲げている。シェールガス、コールベッドメタン生産はいずれも第12次5か年計画の目標値を達成できなかった。だが、足元では生産が活発化しており、Sinopecが開発する重慶市中部のフ陵区は1月に50億立方メートルの生産に到達、CNPCも四川省の長寧地区と威遠地区、雲南省の昭通地区で鉱区を開発中であり今後の進展が期待される、なお、天然ガスの地下貯蔵設備は2020年に148億立方メートルと拘束性項目として位置付けられている。

 

 

エネルギー生産(出所:中国国家発展改革員会より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇石炭産業について

 

 中国経済の発展を支えてきた同国の石炭産業だが、大気汚染と過剰生産設備により、生産抑制や余剰設備の削減が課題となっている。生産量については、前回目標値を達成したこともあり、引き続き同水準で抑制する目標。一方、生産能力は、前期間中に炭鉱7,100か所、生産設備5.5億トン/年[*1]を削減したにも関わらず、2015年末時点の生産能力は57億トン [*2]と目標値の41億トンを大幅に上回った。今回は、生産能力目標値は設定していないが、引き続き過剰設備の解消、生産統合を推進する内容となっている。

 

 生産設備については、2020年までに8億トン/年の非効率鉱山の生産能力を削減する一方、先進鉱山は5億トン/年増やし、生産量を2020年に39億トン以内に抑える計画を示した。達成にあたり、2016~18年の間は新規石炭鉱山を承認せず、2018年以降は年産120万トン以上の生産規模の鉱山のみ承認する方針。非効率鉱山の削減により、政府は2020年には生産に占める大規模鉱山割合が2015年の73%から80%に、鉱山数は9,700か所から6,000か所に減少するとしている。中国では、2016年政府が進めた鉱山稼働日数の制限と供給障害が重なり、石炭価格急騰により価格安定化策を打ち出すなどの対応に政府は追われたが、本計画をみても、中国が過剰生産設備の削減の手を緩める意図がないことが示唆される。

 

 また、山西省、陝西省、新疆ウイグル地区の石炭企業の合併も奨励、2020年には石炭企業数は6,000社から3,000社になるとしている。政府は上流の石炭鉱山会社の合併だけでなく、電力会社、輸送、石炭化学工業との垂直統合も奨励する方針を示した。

 

 

石炭生産能力(出所:中国国家発展改革員会より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

 


 

[*1]JOGMEC 平成29年1月「カレント・トピックス『2016年の中国の石炭需給動向及び石炭関連第13次5カ年計画概要』」

[*2]JOGMEC平成28年2月「平成27年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化等調査『中国における脱石炭の動きと石炭需給及び石炭輸出入動向調査』」

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