中国浙江省・杭州市越境EC試験区とアリババ村 ~出張報告レポート~

2017年05月02日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

 

 浙江省・杭州市越境E-Commerce(電子商取引、EC)試験区、諸曁(しょき)市・タオバオ(アリババ)村を訪問した。浙江省にはアリババ本社がありネットビジネスが盛んな地域である。浙江省の経済概況、越境EC試験区、諸曁市・タオバオ村に関し以下記述する。

 

浙江省経済:サービス業が63%を占める都市型産業構造

 人口5,590万人の浙江省は、2016年9月のG20杭州サミットの開催地であり、北東部には上海市が隣接している。浙江省の2016年域内名目GDPは約4兆6,485億元、実質GDP成長率は前年比7.5%増と、前年より0.5ポイント鈍化したが全国の前年比6.7%増より高かった。産業別では、第3次産業が最も伸び、前年比9.4%増の2兆4,000億元、次に第2次産業が前年比5.8%増の2兆518億元、第1次産業が前年比2.7%増の1,966億元であった。2016年の第3次産業がGDPに占める割合は62.9%と2015年の49.8%から大幅に拡大した。第3次産業が最も大きい都市型産業構造であり、ネットビジネスなどのサービス業を中心に更に発展することが期待される。2016年都市部の住民1人当たり平均可処分所得は前年比8.1%増の4万7,237元で、全国平均の3万3,516元と比べて高水準になっている。

 

 中国の経済発展の特徴は、中央が地方にある程度自由裁量を与え、省間で競争させていることである。それにより浙江省は、40年ほど前は中国の中でも最も貧しい地域の一つであったが、健全な市場経済を実現させ2016年の名目GDP額が全国4位になっている。浙江省は2017年実質GDP成長率7.0~7.5%を目指している。

 

浙江省GDP (出所)浙江省統計局より住友商事グローバルリサーチ

 

 

E-Commerce(EC)の現状と越境EC

 中国国内で、ネット販売が急拡大しており、小売売上高の約16%を占めている。中国国家統計局によると、2016年の物品・サービスのオンライン小売売上高は5兆1,556億元(うち物品が4兆1,944億元)であった。iResearchの統計によると、2016年12月時点の中国のインターネット普及率は53.2%と約7億3,000万人が使用している。オンライン販売でのアリババのシェアは約56%と圧倒的であるが、ここ数年、京東のシェアが拡大しつつあり2015年の23.9%から2016年は24.7%となっている。京東のシェア拡大の背景には、独自の物流システムと高い商品正規品率にあるようだ。ネットで商品購入する時の支払いは、クレジットカード、アリペイ、WeChatなどが主流になっている。

 

 中国の越境EC市場の規模は、9,276億ドルと世界1位であり、2位の米国3,983億ドルを大きく上回っている(2016年eMarketer)。経済産業省「平成28年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)」報告書によると、2016年の日本・米国からのB2C(企業と個人消費者間の電子商取引)の中国越境 EC総市場規模は 2兆1,737 億円。そのうち、日本からの市場規模は前年比30.3%増の1兆366 億円、米国からの市場規模は前年比34.7%増の 1兆1,371 億円と大幅に拡大している。

 

 中国の越境EC試験区として2014年3月、上海、杭州、寧波、鄭州、広州、重慶の6都市が税関総署に許可され、保税区として手続きの利便化・税率の軽減が実現した。保税区とは、中国の税関により設置、あるいは税関の認可により設置された特別経済区域のことであり、保税区である試験区では商品が倉庫に保管され倉庫から配送される。保税区では、手続きが簡素化され、暫定的に輸入関税がかからず、増値税・消費税は1回あたり2,000元以下、年間で2万元以下の取引に限り法定税率の70%が適用される。2016年9月現在では、保税区モデルとして認定されている越境EC試験区は上述の6都市含め10都市に増えている。

 

 

杭州市越境EC試験区訪問

 杭州市にはアリババ本社があるため杭州政府のECへの理解が深く、企業主導の上海越境EC試験区とは異なり、政府主導でEC戦略を進めている。全国で唯一、越境ECをマネジメントする政府機関を設立している。上海は企業が管理し利益を最も重視しているが杭州は建物の管理などを政府が行っている。杭州の基本的な考え方として、市場原理でできないところを政府、市場原理でできるところは民間が行う。杭州では、企業は管理費用を政府に支払う必要がない。入居に関し他の地域の越境EC試験区同様、家賃優遇などで政府が一定の補助金を出している。外資企業、国内企業にかかわらず同じ税率が適用される。主な商品は、日常商品で、ベビー用品、化粧品、ヘルスケアなどが多い。

 

 越境ECのメリットとしては、海外の人気商品に関し一般貿易では登録等に時間がかかるが、越境ECは即座に販売できることである。その後、人気商品は従来の一般貿易に変更できる。このようなことは、越境ECに限定された地域でしかできない。

 

 越境ECで起こり得るのは密輸、つまり税金逃れである。小分けして課税を逃れようとするケースがあるが、それらを防ぐため、注文、支払い、物流の書類を一緒に提出することが義務づけられている。同一人物が何回も購入している場合、モニタリングできるようにもしている。このシステムを導入しているのは杭州が初めてだそうで、現在、物流システム強化のため上海の空港と交渉をしているという。

 

 アリババの天猫(Tmall)はこの杭州市越境EC試験区で誕生した。天猫(Tmall)ビジネスモデルはゼロから政府とアリババが共同で考案したものだ。現在でもコアな機能は試験区内にある。杭州市越境EC試験区の将来的なビジョンとして、業務を輸入から輸出中心に移行し、税関・物流等含むシステムの効率化を進めていくという。品目も日常商品から今までになかった肉類等の輸入も検討している。

 

 

浙江省諸曁市タオバオ(アリババ)村訪問

 アリババの越境ECはB2Cの天猫国際とC2C(一般消費者・と一般消費者の間の取引)のタオバオがある。アリババや京東などのネット販売に力を入れている村はタオバオ(アリババ)村と呼ばれている。アリババ傘下の阿里研究院と阿里新郷村(農村)研究センターが共同で発表した「中国淘宝(タオバオ)村研究報告(2016)」によると、2016年8月末時点で18省・直轄市・自治区に1,311か所のタオバオ村が存在し、少なくとも84万人の雇用が創出されたと推測されている。タオバオ村には衣服、靴、家具など各村で得意とする商品が存在する。

 

 紹興酒で有名な紹興市と隣接した呉敏区諸曁市にはタオバオ村が20か所以上あり、靴下やストッキングの製造を得意としている。諸曁市の強みは、村の人々がECに従事し、生産拠点として機能している点である。規模が小さい会社だと在庫管理が大変でコストがかかるが、共同で使用するなど工夫している。まず靴下を生産・販売している会社を訪問した。主に上海・北京などの都市部からの購入が多かったが最近では農村部からの購入も増えてきたようである。販売はアリババでのネット販売が主であるが最近は京東でのネット販売も拡大しているという。京東での購入者の方が教育・収入水準が高く信頼感があると訪問先のオーナーが話してくれた。費用に関しては、アリババでの広告代が営業利益の50%ほどと高く、競争に勝つにはとにかく宣伝をする必要があるという。物流コスト、出店費用などを差し引くと利益率はかなり低いようである。

 

 次に女性用衣類の倉庫・衣服生産工場を訪問した。ネット販売が約80%でアリババが一番多いが、有名衣服メーカーの商品も生産していた。物流は、様々な物流会社と提携しているが 京東の物流は独自の物流があるので出店のみしている。従業員の賃金は歩合制で平均日給400~500元とかなり高収入である。特にアイロンがけは力仕事でかつ技術を要するため従業員は男性だけで月給平均1万4,000元と高く出来高制となっている。ここでは、倉庫物流に加えビッグデータによる情報分析も行い、どこにどういう工場があるか、エンドユーザーは何を買っているかなどを分析し、人気商品の傾向と今後売れそうなものの情報を工場に発信したりデザインを考えたりもしている。つまり、商社のような機能を持っている。他社の製品などを自社生産したい時はサンプルを購入して少量生産から始め、売れたら大量生産に移行している。オーナーによると、ネットでの人気商品はそこそこ売れる商品はなく、当たればすごく売れて当たらなければ全く売れないという。

 

以上

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