インドのGST導入と石油業界への影響

2017年07月18日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子

 

◇7月1日から導入されたGST

 

 インドでは2017年7月1日から、独立後で最大の税制改革と言われる全国統一の物品サービス税(GST)が導入された。これまで多様かつ州毎にも異なる税制が一本化されることで、煩雑なペーパーワークからの解放やインド市場の統一による事業コストの減少、生産性向上につながり、インド経済にもプラスの効果が生まれるとの期待感が高まっている。石油業界との関連では、原油、天然ガス、ディーゼル、ガソリン、ジェット燃料の5品目については、GST対象外となっている。これは、州政府の多くが間接税収入の最大25%程度を石油製品の付加価値税(VAT)に依存していることから、GST導入が軌道に乗るまで州政府の税収入を保護しようという中央政府の配慮によるもの。中央政府は、5品目のGST対象外はあくまで移行期の措置であり、いずれGSTに組み込むと明言している。

 

 

GST(出所:各種資料より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇石油会社、製油所にとって短期的にはマイナス

 

 石油・天然ガス生産会社や製油所など、GST対象外の5品目を販売する企業は仕入れ税額控除において不利益を被る。5品目を生産するために支払った設備機材、サービスなどに関わるGSTは、5品目販売で受け取った消費税/VATなどと相殺出来ず、GST分がコスト増になるため。また、GSTと従来の税制と2種類の税体系に対応しなければいけないことでコンプライアンスコストも増加するとしている。但し、本件についてエネルギー業界からの懸念の声で、中央政府はGST対象外の5品目の仕入れ税額控除を一部認める意向を示しており、当初懸念されたほど負担にならない可能性もある。また、今回適用除外となった5品目はいずれGSTに組み込まれることが決定しており、財務相が天然ガスについて早々にもGST 5%にすることを検討しているなど、影響は短期的なものに留まることが想定される。

 

 

◇石油製品需要への影響

 

 ディーゼル、ガソリン、ジェット燃料はGST対象外だが、関連消費がGSTの恩恵を受けることによる需要の伸びが期待される。

 

 

ディーゼル

 

 鉄道の荷役輸送にGST 12%が適用される一方、トラック輸送は5%となったため、トラックによるディーゼル需要増加が見込まれる。税率の違いには、鉄道輸送がオーバーキャパシティだとして、トラック輸送の利用を促す政府の狙いがあるとされる。これまでトラック輸送では、州境ごとに売上税を徴収する検問所が設けられ、交通渋滞など輸送効率が悪かった。だが、今後GSTに統一されることで、州境移動も増加、州毎に設けられていた倉庫も大型集中管理になるなど最適化が図られ、トラック輸送の更なる増加にもつながると期待される。

 

インドのディーゼル消費量(出所:インド石油天然ガス省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

ガソリン

 

 乗用車には一律28%のGSTが適用され、サイズ別に小型車1%、中型車3%、大型車・高級車15%が上乗せされる。現行税率は小型車30%、中型車44%、大型車49%であり、GST導入で大型車・高級車は6%近い税引き下げと恩恵を最も受ける。また、自動車メーカー各社は、GST導入による税率減少を顧客に還元するとして、GST導入直後から中型車は3%、高級車は10%近い値下げを実施。なお、自動車メーカーにとってのGST導入のメリットのひとつに、自動車製造州外への販売時に支払っていた2%の中央販売税が廃止されたことが挙げられる。このように自動車に関わる税率の低減は、自動車販売増に繋がり、ガソリン需要にとってもプラスとなる。

 

インドのガソリン消費量(出所:インド石油天然ガス省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

ジェット燃料

 

 航空運賃の値下げによる旅行需要の喚起がジェット燃料の増加に寄与する見込み。

 

 

LPG

 

 これまで需要を牽引してきた家庭用LPGは、州によって無税ないしは2~4%のVATだったが、GSTのもと一律5%と多くの地域で増税となる。また、家庭用LPGの普及を進める政府補助金も削減されることから需要が鈍化する見通し。一方、商業用LPGは、22.5%の税率から18%に減税となるため、需要の増加が期待される。

 

 

インドのLPG消費量(出所:インド石油天然ガス省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

インドの石油製品消費量(出所:インド石油天然ガス省より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◇まとめ

 

 インドの2017年石油需要は、2016年末に実施された高額紙幣廃止による混乱からスタートではもたついたものの、5月には過去最高となる日量450万バレル、6月も同433万バレルと順調な回復をみせている。7月のGST導入直後は一時的な混乱から石油需要が減少する可能性もあるが、経済活動の拡大や自動車需要の伸びを受けて回復していくとみられる。

 

 

以上

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