中国・中南米間の貿易・投融資 ~資源依存の中南米、中国との経済関係強化により産業多角化できるのか~

2017年08月25日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

要旨

 中国・中南米間の経済協力関係は2000年代以降、特に強化されている。主な背景にはWTO加盟後の中国の高度経済成長、資源ブーム、中南米諸国の反米化がある。中国・中南米間の輸出入は急拡大したが、中南米の対中輸出では資源輸出の割合が増加。中国の対中南米直接投資は中国の産業構造の変化に伴い資源からサービス産業へシフトしつつある。中国の中南米向け融資はエネルギー・インフラ分野に集中。中国からの投融資は急激に増加しているが、中南米の経済ガバナンスは概して脆弱である。中南米諸国の大半は資源依存国であるがサービス産業の海外直接投資環境の政策・法整備の改善を進めることにより産業の多角化を進められる。

 

 2017年6月1日、マカオで第3回中国・中南米インフラ協力会議が開催された。中国商務部副代表兪建華氏は開会式で中南米は「21世紀の海上シルクロード」の自然な延長であると述べ、中南米と中国とのウィンウィン関係の益々の発展を強調した。中国は中南米で最も潜在的成長が見込める分野として特にインフラと建設業を挙げ中南米における同分野への協力を引き続き進めていくと言及している。同会議は中南米16か国、世界銀行などから180人以上の代表者、中国側からは外交部、商務部、中国開発銀行、中国輸出入銀行、中国輸出信用保険公司、南米でインフラ関連に携わる中国企業などから800人以上が参加するというかなり大規模な会合であった。本稿では最近の中国・中南米間の経済協力関係と貿易についてまず触れてから、中国からの中南米諸国への投融資の動きと特徴を追ってみる。

 

 

◇中国・中南米間の経済協力関係は2000年代以降強化

 中国・中南米間の経済面での協力関係は2000年代以降、特に強化されている。主な背景にはWTO加盟後の中国の高度経済成長、資源ブーム、中南米諸国の反米化がある。上記の第3回中国・中南米インフラ協力会議の開催に関連した中国・中南米の協力枠組みを振り返ると、2011年12月、米国から自立し地域統合を目指す33か国が参加するラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)が発足し、2014年7月にブラジリアで中国・CELAC首脳会談が開催され、中国は1+3+6協力枠組みを提唱。1期間=5年間の計画(2015~19年)で3つのエンジン(貿易・投資・融資)により6つの産業分野(エネルギー資源、インフラ、農業、製造業、科学技術、ICT)を促進するという枠組みだ。その後、2015年1月に北京で開催された第1回中国CELAC閣僚フォーラムで中国・習近平主席から2025年までに対中南米・貿易総額5,000億ドル、直接投資額2,500億ドルという具体的な数値目標が示された。

トランプ米政権が誕生後、米国はチリ、ペルー、メキシコが参加表明している環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)においては、再交渉が8月中旬から開始されたが、このような動きにより米国と中南米諸国との経済関係は不確実性が高まっている。そのような中、中国は中南米諸国との会合などを開催し経済関係を構築しているのだ。

 

 

◇輸出入総額は2000年以降急増も2014年以降は減少、南米は対中資源輸出の割合増加

 2000年からピークの2014年まで中国・中南米間の輸出入総額は急拡大し21倍となったが2014~16年は輸出入ともに減少した。その間、南米の対中輸出において、付加価値の高いモノの輸出の割合が減少し、付加価値の低い資源・資源関連製品の輸出の割合が増加している。南米の対中資源輸出の割合は、2015年には2000年時点より約8%高い90%以上を占めた。中国で工業化が急速に進み国内での資源需要が急増したため、南米からの資源・資源関連製品の中国向け輸出が増加したからである。

 

 ブラジルを挙げると、対中輸出の割合は、2006年では6%であったが2017年1~7月では24%と大幅に拡大している。中国を含むブラジルの全輸出に占める資源輸出の割合は2006年の43%から2017年1~7月では62%と20%近くも拡大している。これは、モノカルチャー経済が進むことに繋がり経済成長には好ましくない状況である。

 

 中国と中南米の間の輸出入総額は2014年をピークに2015年、2016年と減少したが、これは資源価格の下落、中国及び世界経済の減速により貿易の伸びも低下したことが主因である。しかし、それ以外に米州開発銀行は、高関税と差別的政策も影響していると指摘している。

 

中国・対中南米貿易 (出所)中国商務部より住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

◇中国の対中南米直接投資、資源からサービス産業へ

 中国商務部「2015年度中国対外直接投資統計公報」によると、2015年における中国の世界全体への対外直接投資(ストック)は1兆978億ドル(うち非金融部門は85.5%の9,382億ドル)、香港への6,569億ドルを除くと4409億ドルとなりそのうち1,263億ドルが中南米向けの直接投資となっている。中国の対外直接投資全体に占める中南米向けの割合は11.5%であるが、タックスヘブンの英領バージン島への517億ドル、ケイマン諸島への624億ドルの2つを除くとわずか122億ドルとなる。

 

 国別に関してだが上位5か国(英領バージン島、ケイマン諸島を除く)をみると、ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、エクアドル、ペルーの順でありそのすべてが南米諸国である。企業数をみると、全世界に進出している中国企業30,814社のうち中南米へ進出しているのは5.7%の1,769社になっている。進出企業の多くは英領バージン島、ケイマン諸島以外にベネズエラ、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、エクアドル、ペルー、チリに拠点を置いている。

 

 産業別をみると、石油、ガス、銅、鉄鉱などの採掘産業が中心であったが、最近の動きとして運輸、金融、電力、ICTなどサービス産業への直接投資が増加している。サービス産業の中南米への進出の背景に、中国経済の原動力が製造業からサービス業へ移行していることが関連しているとみられる。Atlantic Council・OECD共同レポートによると、採掘産業は2003~12年の間、中国からの直接投資が60%以上を占めていたが2013~16年では37%まで割合が減少した。一方、サービス産業は2003~12年の21%から2013~16年では約50%以上を占めるようになった。具体的な進出企業を挙げると、主力の電力では、中国三峡集団公司が2013年からブラジルに進出し、水力・風力発電分野で買収を進め、2016年秋には8か所の小型水力発電譲渡交渉で12億ドルの売買契約に合意している。通信機器メーカーの華為技術、中国複合企業の海航集団なども数年前から中南米諸国に進出している。

 

 2025年までに2,500億ドルという中南米向け直接投資における中国の目標は、2015年の2倍になる。2016年秋から中国当局は資本流出抑制策を実施しており中国国有企業への規制も強化しているため今後の直接投資に影響する可能性が考えられる。中南米諸国に進出している中国企業のうち80%以上を国有企業が占めるが、不動産やホテル、映画館、娯楽、スポーツクラブなどの規制対象分野よりむしろ採掘、電力等インフラ、自動車など政府が推進している分野が多いためさほど大きな影響はないだろう。

 

中国対外直接投資(ストック)(出所)中国商務部より住友商事グローバルリサーチ作成

2015年中国対中南米直接投資(ストック) 国別ランキング (出所)中国商務部より住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

◇中国の対中南米融資、エネルギー・インフラに集中

 中国の中南米向け融資は、ベネズエラ、エクアドルなど国際資本市場での資金調達が困難な国へも融資し、エネルギー・インフラに集中しているのが特徴である。世界銀行などの国際開発金融機関によるインフラ向け融資の減少により益々、中国からのインフラ向け融資が期待されている。2013年の全世界の国際開発金融機関の融資は、途上国のインフラ支出のうちわずか1%未満の約500億ドルであったという。国際開発金融機関のインフラ向け融資の減少は、環境と社会へのセーフガードへの配慮からインフラ融資までに時間とコストがかかるため途上国は他に融資先を求めるようになったことが背景にある。融資までに時間とコストをかけない中国からの融資が途上国から歓迎される傾向にあり、中南米諸国も例外ではない。中国政府系銀行(中国国家開発銀行・中国輸出入銀行)が融資を主に行っている。

 

 世界経済フォーラムの推計によると、2005~16年の中国の中南米向け融資累計額は1,410億ドルで、そのうちエネルギー(エネルギーインフラ開発含む)が1,000億ドル、インフラが243億ドルとなっており全体の88%がエネルギーとインフラ向け融資になっている。国別でみると、ベネズエラが622億ドルと最も大きく、ブラジルの368億ドル、エクアドルの174億ドル、アルゼンチンの153億ドル、ボリビアの35億ドルの順に続く。

 

 単年の2016年をみると、中国の中南米向け融資総額は約210億ドルと、2005年以来3番目の高水準(2010年350億ドル超、2015年250億ドル弱)であり、世界銀行の82億ドル、米州開発銀行の117億ドルを凌ぐ額だ。融資総額約210億ドルのうち、2016年融資総額の92%がブラジル、エクアドル、ベネズエラの3か国向けであり、特にブラジルが72%(152億ドル)となっており主な融資先は官半民企業の石油企業・ペトロブラスであった。

 

 上記の通り中国のベネズエラ向け直接投資(ストック)は中南米で最も大きいが、累積融資額も最も大きい。ベネズエラは2001年、中国にとって初のヒスパニック系戦略的開発パートナーとなり2014年には包括的・戦略的パートナーへと格上げになった。2007年以降、中国は石油による返済を条件とした融資をベネズエラに行うとともに見返りとして中国企業はベネズエラ国内市場への優先的アクセス、利益率の高いインフラ投資コンセッションなどを得ている。しかし、政治、経済、外交上非常に不安定であるマドゥロ政権の下、原油輸出が輸出全体の9割以上を占めるベネズエラにとって2014年以降の原油下落の影響は大きく対外債務返済に苦戦している状況だ。

 

 ところが、中国側の報道によるとベネズエラは中国への債務を期限通り返済しているという。ベネズエラは累計622億ドルの債務のうち約450億ドルをすでに中国に返済しており残りは元利合計の約200億ドルである。2016年、ベネズエラは対外債務の元利合計170億ドルを返済したがそのうち110億ドルが中国への返済であった。

 

 中国はベネズエラとの経済協力関係を継続していくとみる。最近の動きとして、2017年6月、中国はベネズエラ原油を精製する製油所を中国国内・広東省に建設することを決定している。ベネズエラは中国へ原油で債務返済しているが1970年代に上質油が取り尽くされ、原油の品質が悪い。品質が悪いため採掘・精製コストが高くなる。にもかかわらず中国は2009年から8年間ベネズエラと協議した結果、ベネズエラ原油を精製する製油所を共同建設するというのだ。竣工・稼働は2020年からの予定である。

 

2005年~2016年中国・中南米向け累積融資額(億ドル)、2005年~2016年中国・中南米向け融資累積件数 (出所)The Inter-American Dialogueより住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

◇中国・中南米の経済ガバナンスと直接投資環境

 海外投融資を決定する際、重要視する要素の一つとして経済的ガバナンスが挙げられる。経済的ガバナンスの指標として米国非営利団体ワールド・ジャスティス・プロジェクト(WJP)が毎年発表している法の支配インデックス(the Rule of Law Index)がある。2016年版は、113か国・地域で11万世帯以上に調査し政治力の制約、汚職の低さ、政治の開放度、基本的な権利、秩序と安全、規制執行、民事司法、刑事司法など44項目を基に評価・ランク付けしている。113か国・地域の中で中南米諸国の評価・ランキングをみると、中国からの直接投資と融資の両方が最も大きいベネズエラが最下位となっている。中国からの直接投資と融資の両方が大きいエクアドルも最下位から数えて19番目と法の支配が脆弱であり、ブラジル、アルゼンチンは中国より法の支配が適切であるがそれでも113か国中真ん中くらいのランクである。経済的ガバナンスを重要視するというより、中国は中南米との政治的・外交的な関係強化や自国の発展に資する投融資を積極的に行っているのであろう。

 

法の支配インデックス (出所)WJPより住友商事グローバルリサーチ作成

 

 次に海外直接投資環境を考察する。分析する方法に、OECDの直接投資制限指数(FDI Regulatory Restrictiveness Index)がある。この指数は株式保有に関する外資制限、外資認可メカニズム、外国人管理職雇用の制限、支店・資本の本国送還・土地所有などといった業務関係での制限である4項目を海外直接投資の主な決定要因とし指数化・算出したものである。2016年の直接投資制限指数の対象国は62か国であり、中南米諸国ではコロンビア、アルゼンチン、チリ、ペルー、ブラジル、メキシコの6か国が含まれている。これらの国々と中国、OECDを比較すると、総合スコアでOECD平均より開放度が高いのはコロンビア、アルゼンチン、チリの3か国である。ペルー、ブラジル、メキシコはOECD平均より開放度が低いが、それにもまして法令上の制限が厳しく閉鎖的なのは中国で、調査対象国で最下位から4番目のランクである。採鉱・採石業スコアはどの国も総合スコアより低くコロンビア、アルゼンチン、チリに至ってはスコアが0である。一方、サービス産業スコアはどの国も閉鎖的になっている。つまり、2つのことがいえる。1つ目は、中国は自国内で中国企業、特に国有の大企業が国内市場を独占し外資の進出に関し制限を設ける一方、自国より制限が厳しくない海外には進出しやすいようになっている。2つ目は、中国の中南米諸国への直接投資は資源からサービス産業へ移行しているが、サービス産業への直接投資は法令上の制限が採鉱・採石業より多い。

 

2016年OECD直接投資制限指数 (出所)OECDより住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

◇結論

 中南米諸国の大半は資源依存国であり産業の多角化が課題である。しかし、対中貿易では資源輸出の割合が増加傾向にある。直接投資においては、資源を求めた投資から現地での消費が原動力のサービス産業の進出による市場拡大へと移行しつつある。中国からの融資はエネルギー、インフラ分野がほとんどだ。中国からのサービス産業への直接投資とエネルギー、インフラへの融資は中南米諸国にとって自国のサービス産業の拡大のチャンスであり、産業多角化のドライバーとなり得る。それには、中南米諸国はサービス産業の政策・法整備の改善を進めることが重要である。

以上

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