中国石油市場を巡るロシアとサウジアラビアの動向

2017年10月06日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子


 

◇2016年以降、ロシアが中国向け原油輸出で首位に

 

 中国は米国に次ぐ世界2位の原油輸入国であり、需要の伸びが今後も期待できる有望市場として原油輸出国がシェアを拡大しようと凌ぎを削っている。近年では、ロシアの躍進が目覚ましく、2016年にサウジアラビアを抜き通年で輸出量1位に台頭、2017年1~8月実績でもロシアは前年同期比13.6%増の日量117万バレル、サウジは同▲1.4%減の日量104万バレルと輸出量でサウジを上回った。2016年以降、ロシアの輸出量が増加した背景には中国の民間製油所(通称Teapot Refinery)からの原油購入が増加したことが大きい。民間製油所は、2016年1月から原油輸入割当が付与され海外産原油を輸入することが可能になったが、財務基盤が脆弱なため、長期契約を嗜好する保守的なサウジとの取引を避け、代わりに小規模のロットでユーザンス期間が短いロシア産原油を購入。2016年の原油輸入増の大半を民間製油所が担っていたこともあり、利便性の高いロシア産原油の輸入増に繋がった。

 

 

◇石油融資を軸に拡大してきたロシア・中国間の原油取引

 

 中国にとってロシアは、エネルギー安全保障の観点から中東およびマラッカ海峡輸送ルート以外の原油調達先として重要な相手先。両国の原油取引については、専ら中国がロシアの経済的窮地を活用し、融資の見返りに石油による返済を受ける石油融資(Loan for Oil)を締結することで拡大してきた経緯がある。石油融資の初案件は2004年にロシア国営石油会社Rosneftによる同業Yuganskneftgaz買収に際し、中国が61億ドルの融資を実施したもので、その後も2009年の世界金融危機(250億ドル)、2013年のRosneftによるTNK-BPの買収時に石油融資契約が締結されてきた。2011年に稼働したESPOパイプラインの建設費用も2009年の石油融資で調達した資金で賄われた[*1]。ESPOパイプラインについては、2018年からは輸送能力が現行の日量30万バレルから同60万バレルに倍増する見通しであり、ロシアが原油輸出首位の座を維持するのに追い風となっている。

 

 なお、2017年8月には中国民間企業CEFC China EnergyがRosneftの株式14.2%をGlenocre/Qatar Investment Authorityから91億ドルで購入。この取引も欧米によるロシア向け経済制裁に伴い、欧米銀行がGlencore/QIAの株式購入資金の融資シンジケートを組成できなかったことを契機に、資金力のある中国企業が入り込んだもの。ロシア政府は、2006年のRosneft IPOの際に中国資本の参入を阻んだが、結果として今回もロシアの窮状を活用した中国が粘り勝ちしたと捉えることができる。

 

 

◇川下分野への投資を軸に原油輸出シェアの維持を図るサウジ

 

 サウジと中国の石油取引が拡大したのは、2005年にサウジ・アブダッラー前国王がアジア重視政策を採用して以降(初外遊先は北京)。中国との石油取引拡大のきっかけが資金難に端を発しているロシアに比べ、サウジは過去に米国や日本に対し実施してきた戦略と同様、一貫して中国向け川下事業への投資を通じ自国産原油の輸出を確保する方針をとっている。2005年には、サウジ国営石油会社Saudi Aramco、中国国有石油会社Sinopec、石油メジャーExxonMobilと共同で福建省に製油所建設(日量24万バレル)で合意、2012年にはサウジの大規模製油所Yasref(日量40万バレル)にSinopecが出資するなど緊密な関係を築いてきた。その後、2014年の油価低迷で原油輸出国の歳入が減少し、中国を巡るシェア争いが激化するなか、2016年、2017年と相次ぎサウジアラビアの副皇太子、国王が中国を訪問し、石油分野や精製・石化事業における協力関係を強化することで合意した。具体的な案件としては、国有有企業China North Industries Group Corp(通称Norinco)と遼寧省に日量30万バレルの製油所建設で合意したことや、PetroChinaの雲南省製油所(日量26万バレル)への参画などが持ち上がっている。この他、少量ではあるが民間製油所と売買契約を締結するなど、ロシアを牽制する動きをみせている。

 

 

中国向け原油供給量推移(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

 


[*1]Michal Meidan, “China’s loans for oil: asset or liability”, The Oxford Institute for Energy Studies, December 2016

 

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