加速する海外eスポーツ、国内でも根付くか

調査レポート

2019年11月29日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
大西 貴也


(2019年11月15日執筆)

 

 2018年は日本国内では「eスポーツ元年」とも呼ばれ、eスポーツが各種メディア媒体で盛んに取り上げられ、まるでバブルのような熱狂した一年になった。認知度が急速に高まり、市場規模も急拡大し、それに伴い前回のレポートで指摘した諸課題についても進展が見られた。一方、海外でもeスポーツ市場は一層拡大し、その熱はまだまだ冷めていない。eスポーツを取り巻く環境が海外・国内でどう変遷したか、以下、確認していきたい。 

 

<用語・定義>

 まずはeスポーツ関連の用語についておさらいしておきたい。そもそもeスポーツとはいわゆる対戦ゲームを競技として行う事を指す。日本では一般的に身体運動を伴うフィジカルスポーツを「スポーツ」と呼ぶため、チェスや将棋などのマインドスポーツを「スポーツ」と呼ぶ事に違和感を抱く人が多く、eスポーツについても同様とされており、認知度は上がっても普及に弾みがつきにくい一因となっている。

 

 また、eスポーツでは各ゲームタイトルが従来のスポーツの種目に相当するが、誰でも自由に扱える従来のスポーツ種目と異なり、ゲームタイトルはパブリッシャーであるゲーム会社がその使用許諾を決める。具体的にはeスポーツ大会を開催する際、開催者がパブリッシャーへパブリッシャーフィーという許諾料を支払う形を取る事が多い。

 

 なお、eスポーツはフィジカルスポーツでいえば陸上競技のように種目が非常に多岐にわたる。種目すなわちゲームタイトルなのでジャンルも多くまさに千差万別だが、主要なジャンルは①Multiplayer Online Battle Arena(以下MOBA), ②Shooter, ③Real Time Strategy(以下RTS), ④Fighting, ⑤Collectible Card Game(以下CCG), ⑥Sportsの6種にまとめることができる。

 

図表①主なeスポーツのジャンル(出所:各種資料より住友商事グローバルリサーチ(SCGR)作成)

 

 

<2019年のeスポーツ業界の動向>

 さて、ここからは、2019年のeスポーツ業界の動向について見ていきたい。まずは海外動向として、ジャンル別のeスポーツタイトルの統計値(累計)を確認する(図表②)。

 

図表②ジャンル別eスポーツタイトル統計値(1998年~2019年10月31日)(出所:esportsearning.comよりSCGR作成)

 

 2019年1月から10月までの賞金総額は約1.8億ドルで、すでに2018年実績を超えている。2019年の賞金額レースを一言で表現すると「下克上」だろう。2014年以降MOBAジャンルのDota2は圧倒的立場にあり、単一大会賞金総額、タイトル別単年度賞金総額、タイトル別累計賞金総額などあらゆる部門でDota2が断トツ首位に君臨してきた。ところが、Dota2の独壇場という毎年代わり映えしない賞金額レースの様相が、今年は大きく変化している。タイトル別単年度賞金総額でFortniteがDota2を2千万ドルという差で抜き去り圧倒している。このFortniteの勢いで、MOBAジャンルとShooterジャンルの差は大きく縮まり、同じペースが続けば数年のうちにトップジャンルが交代しそうだ。とは言えDota2の強さはいまだに健在で、7月のFortnite Word Cupが単一大会賞金総額で初めて3千万ドルを超え、過去5年で初めてDota2の記録を更新したが、8月のThe International 2019でDota2はその記録を再更新し、すぐさまFortniteを抜き返した。引き続きDota2とFortniteが激しい一騎打ちを繰り広げるのか、あるいは別の新星が割って入るのか、今後も賞金額レースからは目が離せない。

 

 2019年はジャンル別賞金総額の下位陣でも動きがあり、昨年末4位だったFightingと6位だったSportsが入れ替わった。Fightingはプレイヤー数やトーナメント数では3位を堅持しているが、こと賞金額については伸び悩んでしまった。一方、Sportsは特にFIFA 19の賞金額の躍進が目覚ましかった。賞金総額3位のRTSと5位のCCGはそれぞれ主力タイトルのStar Craft IIとHearthstoneが堅調さを維持した。

 

 国内動向を見てみると、eスポーツの認知度向上と共にスポンサー企業や大会が増え、eスポーツ関連の地方団体や専門学校が創設・開設されており、会場も設立され始めている。冒頭で述べた通り、国内普及上の課題の解決に進展が見られ、eスポーツ業界はまた一歩発展の階段を昇ってきたといえよう。

 

 以下、図表③に沿って各月の動向についてより詳細に記していく。

 

図表③2019年の主なイベント(出所:esportsearning.com及び各種報道よりSCGR作成)

 

 1月:海外では賞金総額1百万ドルとなったThe Chongqing Major 2019(開催地:中国;種目:Dota2(以下同様))が19日から27日にかけて開催された。

国内では26日(土)・27日(日)の2日間、「日本eスポーツ連合(以下、JeSU)」と「アジアeスポーツ連盟」の共催で「eスポーツ国際チャレンジカップ」が幕張メッセで開催された。JeSUが日本で初めて開催した当国際大会ではOverwatch、鉄拳7、ウイニングイレブン2019、ストリートファイターVアーケードエディションの4種全てで日本代表がアジア代表に勝利。賞金は勝利チーム各300万円、負けたチーム各75万円で総額1,500万円だった。

 

 2月:12日にオランダ調査会社Newzooによる「eスポーツ年報」が発刊された(詳細は定量データの項目を参照)。大会ではSix International 2019(カナダ;Rainbow Six Siege)が2月11日~17日に開催され、賞金総額2百万ドルのうち、3位に入った日本チームが16万ドルを獲得した。

国内では世界最大級の格闘種目系イベントEVOの日本版であるEVO Japanが15日から17日に福岡で開催された。鉄拳7とストリートファイターVアーケードエディションはそれぞれ総額300万円、ブレイブルー クロス タッグバトル、ソウルキャリバーVIなど4種目は各種目総額100万円であり、大会賞金総額は1,000万円だった。

 

 3月:7日から17日にかけて中国で開催されDota2など4種目で賞金総額233万8千ドルとなったWorld Electronic Sports Games 2018を筆頭に、Intel Extreme Masters Season XIII – Katowice 2019(ポーランド;Counter Strike: Global Offensive及びStarCraft II)、Dream League Season 11(スウェーデン;Dota2)、Mythic Invitational 2019(米国;Magic: The Gathering Arena)などが開催された。

 国内では17日に日本の最大級イベントRAGE Spring 2019が幕張メッセで開催され、PUBG Mobileの大会が初めてRAGEで開催されGACKTの参加が話題となった(他種目はShadowverse, Brawlstars, 大乱闘スマッシュブラザーズSpecial)。また、毎日新聞主催の全国高校eスポーツ選手権の決勝大会(League of Legends及びロケットリーグ)、及び、タイトー主催のアーケードゲーム大会の闘神祭2018-19(鉄拳7 Fated Retribution Round2、キングオブファイターズ14など6種目の決勝大会、および、ウルトラストリートファイターIV、ストリートファイターVなど7種目の当日の大会)、がそれぞれ幕張メッセ及び東京ビッグサイトにて23日・24日に開催された。

 

 4月:Hearthstone World Championship 2019(台湾)やFortnite World Cup 2019 Qualifiers(Week 1-3、国際大会予選、各地)などが開催された。

 国内では10月決勝大会となる国体eスポーツ大会の都道府県代表決定戦が開始され、また、BMXやボルダリングといったエクストリームスポーツの国際祭典である"FISE (Festival International des Sports Extrémes) World Series Hiroshima 2019"が19日から21日に広島で開催された際、ウイニングイレブン2019及びストリートファイターVアーケードエディションの2種目でエキシビションマッチが行われた。

 

 5月:Fortnite World Cup 2019 Qualifiers(Week 4-7、各地)、Overwatch Contenders 2019 - Season 1 (プロ養成リーグ戦、各地)、Mid-Season Invitational(ベトナム・台湾;League of Legends)、MDL Disneyland Paris Major 2019(フランス;Dota2)などが開催された。

 国内では25日に「eスポーツ促進協会」が設立された。パブリッシャーを会員に含まないことにより、中立的な立場でeスポーツ促進に寄与することが狙い。国内団体が複数あるため、仮にeスポーツがオリンピック競技の対象になっても日本は参加できない可能性が高いが、eスポーツ促進協会の見方ではオリンピック参加は時期尚早でまずは普及が必要とのこと。

 

 6月:Fortnite World Cup 2019 Qualifiers(Week 8-10、各地)、King Pro League Spring 2019(中国;Arena of Valor)、EPICENTER Major 2019(ロシア;Dota2)などが開催された。

 国内ではRAGE Summer 2019が16日に幕張メッセで開催され、Shadowverse, 及びPUBG Mobileの2種目の大会の他、Zenonzardの公式TV番組公開生配信も行われた。

 

 7月:Fortnite World Cup Finals 2019が26日から28日に米国で開催され、2013年以来常に賞金総額1位を更新し続けてきたDota 2の国際決勝大会The Internationalを初めて別の大会が抜いた。また、16歳の米国人選手が個人戦で優勝し、個人戦としては過去最高の賞金(3百万ドル)を獲得。日本代表選手は全員中高生で国別では18位となり賞金286,250ドルを獲得。この他、CWL Pro League 2019 Finals(米国;Call of Duty: Black Ops 4)、Intel Grand Slam Season 2(ドイツ;Counter Strike: Global Offensive)などもあり、2019年の単月としては最高賞金総額を記録した。

 国内ではMONSTER STRIKE GRANDPRIX 2019が幕張メッセで13日から14日に開催され、賞金総額1億円と日本最大級の大会となった。

 

 8月:The International 9(中国;Dota2)が15日から25日に開催され、34百万ドル超という過去最高の賞金総額を記録し、一大会の賞金総額ではFortniteを抜き返した。また、Fortnite Champion Series – Season X(オンライン・各地)、Honor of Kings World Champion Cup 2019(中国;Arena of Valor)、CWL Championship 2019(米国;Call of Duty: Black Ops 4)、Overwatch Contenders 2019 – Season 2(各地)、EVO 2019(米国;ストリートファイターVアーケードエディションなど9種目)などもあり、単月で7月に迫る賞金総額となった。

 国内では「荒野Championship - 元年の戦い 荒野王者決定戦」がベルサール高田馬場で12日に開催された。

 

 9月:StarLadder Berlin Major 2019(ドイツ;Counter Strike: Global Offensive)、Fortnite Champion Series – Season X(オンライン・各地)、TwitchCon 2019(米国;Fortnite、Apex Legends、Teamfight Tactics)、Overwatch League – Season 2 Playoffs(米国)などが開催された。

 国内では東京ゲームショウ2019が12日から15日まで開催され、昨年以上にeスポーツスペースが拡大し、各種講演や全国都道府県対抗eスポーツ選手権本選組合せ抽選会、eFootballウイニングイレブン2020日本代表決定戦、Rainbow Six Siegeのエキシビションマッチ、パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019、Call of Duty: Modern Warfareのスペシャルマッチ、DEAD OR ALIVE 6 World Championship "The Fatal Match in Japan"、鉄拳プロチャンピオンシップ日本代表決定戦、Arena of Valor International Championship日本代表決定戦、ぷよぷよチャンピオンシップSEASON 2 TGS特別大会、ドラゴンクエストライバルズ マスターズカップ in TGS2019、CAPCOM Pro Tour アジアプレミア、と数多くの大会が開催された。この他、LJL 2019 Summer Split Finalsが16日に立川立飛アリーナで、Rage Shadowverse Autumn 2019が24日に秋葉原UDXで、それぞれ開催された。

 

 10月:StarSeries & i-League CS:GO Season 8(トルコ)、DreamHack Rotterdam 2019(オランダ;Dota 2、Counter Strike: Global Offensive、Rainbow Six Siege)、PUBG Europe League 2019 – Phase 3(ドイツ)などが開催された。

 国内では「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が茨城で開催され、文化プログラムではあるが国体で初めてeスポーツが種目となった。

 

 

<定量データ>

 前述のNewzooの「eスポーツ業界年報」によると、2018年のeスポーツ業界収入は前年比37.4%増の約9億ドルと推計されている(図表④)。最大構成要素はスポンサー料で全体の39%を占めていたが、全体の20%を占めた放映権料が前年比88.5%増と最大の伸び率を示した。2019年にはeスポーツ業界収入が前年比26.7%増の約11億ドルとなり、初の10億ドル超えになると予測されている(図表⑤)。最大構成要素はスポンサー料で4億5,670万ドルに達すると見込まれており、放映権料と共に前年からシェアは上昇する。一方で、広告料、物販・チケット販売、パブリッシャーフィーの3項目はシェアが下落する見込み。

 

 なお、スポンサー料は、eスポーツ選手個人やeスポーツチームに支払われる場合は個人やチームの活動費に使われ、大会に対して支払われる場合は大会運営費に充てられる、長期的ブランディングを目的としたものである。一方、広告料は大会では大会中の宣伝に、TVやインターネット動画サイトなどのメディア媒体ではその媒体内での宣伝に、それぞれ使われ、短期的な宣伝を目的としたものである。また、パブリッシャーフィーとは大会主催者からゲームタイトルの知財保有者へ支払われる使用許諾料のことである。

 

 今後の見通しは、ベースシナリオでは2022年に業界収入が約18億ドルまで拡大する(図表⑥)が、より楽観的なシナリオでは約32億ドルにまで達するという。なお、視聴者数は2018年に前年比17.8%増の3億9,500万人と推計され、2019年は同15%増の4憶5,400万人、2022年には6億4,500万人に達すると予測されている(図表⑦)。2019年の視聴者数のうち、eスポーツ愛好家は2億120万人だが、全体の57%がアジア大洋州、16%が欧州、12%が北米、15%がその他という内訳であり、アジア大洋州のシェアが際立って高い。人口が多い中国では単純に視聴者数が多いことが、eスポーツ先駆者である韓国では多数の大会が開催されていることが、それぞれ大きく影響しているものと考えられる。

 

図表④2018年業界収入(%, 計約9億ドル)(出所:NewzooよりSCGR作成)

 

図表⑤2019年業界収入(%, 計約11億ドル) (出所:NewzooよりSCGR作成)

 

図表⑥eスポーツ業界収入の推移(出所:NewzooよりSCGR作成)

 

図表⑦eスポーツ視聴者数の推移(出所:NewzooよりSCGR作成)

 

 なお、世界のスポーツファン人口トップ10は図表⑧の通り。

 

図表⑧世界のスポーツファン人口トップ10(出所:https://sportsshow.netよりSCGR作成)

 

 eスポーツの視聴者数は2019年で約4.5憶人なので、9位のアメリカンフットボール・ラグビーや10位ゴルフより人気があり、フィジカルスポーツと比較してもトップ9に入れる数字である。

 

 

<国内普及への課題に対する進展>

 前レポートでは日本国内での普及への課題を3つにまとめたが、各課題についてその後の進展状況を確認してみる。

 

①収益性

 2018年中に知名度が向上したことで、視聴者や参加者が増え収益もある程度増えた。実際、市場規模は2017年から2018年で13倍にまで拡大した(図表⑩)。特にスポンサー企業数が圧倒的に増え、従来ゲーム関連会社中心だったものが、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)、日本野球機構(プロ野球)といったフィジカルスポーツのプロ協会に加え、トヨタ自動車、三井住友銀行、日清食品などゲーム関連以外の業種のスポンサーも続々登場している。eスポーツプレイヤーや視聴者は若年層が多いため、当該層への接点を求めての参入例が散見される。

 

 業界収入の内訳を見ると、賞金が含まれているので前述の世界全体の数値と同一条件の比較ではないが、国内の方が圧倒的にスポンサー料の割合が大きくパブリッシャーフィーはごくわずかという点が見て取れる(図表⑨)。これは他国に比べ日本のeスポーツ業界がいまだ黎明期にあるため、先行投資という形でのスポンサー料が増えているためと考えられる。また、多額の放映権料をテコに業界を拡大していった欧州サッカー界や米国スポーツ業界と異なり、日本のTV業界ではスポーツの試合の無料放送が根強いことも一因かもしれない。ただ、もともとeスポーツの視聴媒体としてはインターネット経由が多く、日本でもスマホの普及率が高いことから、日本においても有料視聴が根付いて行き、放映権料の今後の拡大が期待される。

 

 なお、eスポーツファン数は2017年に比べ市場規模ほどは伸びていない(図表⑪)。これは最初から若者がファン層の中心であったことが理由と推測される。上述の通り市場規模の急拡大は参入スポンサーの急増によってもたらされたと考えられるが、これはすなわち企業側が後からeスポーツについて認知してアプローチしてきたものと考えられる。

 

 懸念点を挙げれば、前回のレポートで指摘した業界ガイドラインの策定や統一したパブリッシャー使用許諾プラットフォームなどについてはまだ大きな進展が見られなかったことだ。

 

図表⑨2018年日本のeスポーツ業界収入(%, 約50億円)(出所:GzブレインよりSCGR作成)

 

図表⑩日本のeスポーツ市場規模の推移(出所:GzブレインよりSCGR作成)

 

図表⑪日本のeスポーツ視聴者数の推移(出所:GzブレインよりSCGR作成)

 

②法制度

 前回レポートで指摘した通り、eスポーツ大会運営にあたって、「不当景品類及び不当表示防止法(以下、景表法)」、「刑法」、「風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(以下、風営法)」の大きく3つの法的な壁があった(図表⑫)。これまでJeSU(日本eスポーツ連合)は、弁護士や経済産業省と連携し、関係省庁に規制緩和を働きかけ、所管する消費者庁と協議してきた。そんな中、9月中旬に、景表法及び刑法に関して問題の無い運用方法がついに明示された。

 

 まず景表法に関して、従来はeスポーツ大会の賞金が懸賞にあたるため、10万円という上限が適用されるとの解釈であったが、今回、プロ選手に提供する賞金が「仕事の報酬」にあたるため景表法の規制の対象外となる、と整理された。つまり10万円超の賞金への道が開け、海外のように数億円といった高額賞金も可能となる。

 

 次に、刑法に関して、従来は参加者からの参加料が賞金になる場合には賭博罪にあたる可能性があるとの解釈であったが、今回、「参加料は運営費に充て、賞金はスポンサーが提供する」と明確に区別すれば賭博に該当しない、とするJeSUの見解がまとめられた。法務省としては本件は個別判断を要するため最終的には裁判所の判断に委ねられており直接には回答できない、との見解だが、今回の業界団体の見解を参考に都度当局へ適法性の確認を行えば、eスポーツ大会の開催は十分可能になってきたようにみえる。

 

 日本での大会は賞金総額が少ないことが、海外選手やイベント開催者から敬遠されてきた理由の一つだが、上記の2つの法律の壁が突破された事で、今後日本で高額賞金の大会を開催することも可能になり、海外選手や大型大会を招聘しやすくなり、日本のeスポーツ業界のさらなる活性化に繋がることが期待される。

 

 なお、残る法的な壁は風営法だが、現状警察庁の見解は「個別判断」だが、JeSUは「eスポーツが対象から除外されるよう協議を続けている」としている。風営法のeスポーツに関連する部分はゲームセンターによる賞金供与を禁ずるものである為、刑法の時と同様、都度当局へ適法性の確認を行えば、十分eスポーツ大会を開催可能なようにみえる。その際、刑法と同様に、問題とならないような場合分けをJeSUが関係者と共にまとめ、公表する事が期待される。

 

図表⑫日本における法的な壁(各種報道よりSCGR作成)

 

③環境

 NTTデータ経営研究所の調査によると、2018年11月時点でeスポーツという言葉の認知度は78.8%に達していた。2018年7月では41.4%だったため、知名度は間違いなく向上している。この原因はひとえに配信媒体の拡大に尽きるだろう。当初インターネットのみだったがTVやラジオでの放送、新聞や雑誌での取り扱いが急増し、更に漫画連載などもあり、日常的にeスポーツという単語を目にするようになった。認知度向上と共に、視聴者数自体も上述の通り増加している。

 

 個別企業の動きで見ると例えば吉本興業はeスポーツのワンストップサービスを提供しようとしているが、既に日本のLeague Of Legendsのリーグを購入し渋谷の専用施設で観戦可能にし、2018年の決勝戦は有料参加者4,000人と日本で最大規模となっている。

 

 視聴の場に関しては、上述の通り、配信媒体はインターネットの動画サイトからTVやラジオの番組にまで拡大しており、会場については渋谷の吉本の施設に続き、名古屋パルコにも専用会場が11月に設置される予定であり、コナミも銀座施設が11月末完成予定となっている。

 

 育成の場に関しては、東京アニメ・声優専門学校が2016年にeスポーツ学科(プロゲーマー、イベント企画・制作、ストリーマー、キャスターの4種の専攻あり)を初めて設置、今ではアニメ学科を越える人数となっている他、北海道では2017年、大阪でも2018年にそれぞれ専門学校が開校されている。高校にもeスポーツの波は広がり部として活動し始めているところもあり、上述の通り学生選手権大会も開催されている。

 

 環境には間違いなく改善が見られるが、前述のNTTデータ経営研究所の調査では、eスポーツの内容を理解している人は全体の3割程度に留まっていた。eスポーツを取り巻く環境の各項目についてもeスポーツ先進国に比べると不足感はいまだに強い。例えばeスポーツ先進国の米中韓の3か国は過去7年ほど賞金総額および選手数で世界のトップ3を争っているが、日本はトップ10にすら入っていない。特に米中韓では1億円を超える賞金を獲得している選手が多数いるが、日本では一人のみ。また、中・韓では2000年代から政府がeスポーツを支援しており、専用スタジアムなどインフラも充実している他、米英中では大学でeスポーツを専攻(主に業界に特化したマーケティングや経営、及び、競技の企画や運営などを学ぶ)することもできる。

 

 

<今後の展望>

 eスポーツの今後について5G(第5世代移動通信システム)の導入により場所の制約から解き放たれる可能性がある。「低遅延」はShooterや格闘などタイムラグが勝敗に直結するジャンルでは特に重要となる。5Gは移動体での運用は難しいとされているが、技術的に改善されれば移動中もeスポーツを楽しめるようになる。さらにクラウドゲーミングと組み合わせれば専用端末が不要になり、PCやスマホのみでeスポーツをどこでも楽しめるようになる。さらにもう一歩進み、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)技術が進化すれば、実際の身体能力に頼らずにeスポーツを行える領域が増え、真に垣根のないスポーツを楽しめるようになるかもしれない。

 

 日本のeスポーツは、まだまだ黎明期を脱してはいないものの、既にeスポーツという単語が日常に溶け込んできていることから、社会への浸透は着実に進んでいるようだ。上述の通り、収益、法律、環境の3分野での課題についても解決への進展がみられており、社会の注目を集めるのみならず、スポンサー料という資金も集まってきている。資金を環境整備に向けてうまく活用し、業界がさらに発展し、eスポーツエコシステムの形成がなされていけば、米中韓といったeスポーツ先進国の背中も見えてくるだろう。米国のように民間主導になるか、中国・韓国のように政府主導になるのか、日本政府の動向にも注目していきたい。そして、eスポーツが海外同様日本国内でも根付くのかどうか、今後も追っていきたい。

 

以上

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