中東フラッシュレポート(2022年2月前半号)

2022年02月25日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2022年2月21日執筆

1. イラン核合意(JCPOA)再建交渉、妥結間近か

 2月7日、バイデン政権はイランの原子力関連事業への外国企業の参入を禁止する米国の制裁に関する免除措置(ウェイバー)を復活させた。同ウェイバーを復活させないと、イランが貯蔵する濃縮ウランの国外移動や核不拡散の技術協議ができないための措置だが、イランの外相は「これだけでは不十分」と発表し、逆に米国内のタカ派からは「イランから何も保証を得ずに先に制裁を解除した」としてバイデン政権は批判を浴びた。

 なお、ウィーンではJCPOA再建交渉の第8ラウンドが行われているが、欧米の当事国は今回のラウンドを最終ラウンドとすべく、交渉妥結に向けて協議を加速させている。2月16日に米国務省報道官は「今後数日間が重要」と発言し、イランの外務次官も「合意に限りなく近い」とツイートした。欧州やロシアの外交官も同様の発信をしており、2月下旬から3月にかけての交渉妥結、そして1~2か月の履行期間でイランの核開発抑制作業と米国の制裁解除手続きなどが行われるとみられ、JCPOA復活の可能性が高まっている。

 

2. 北京オリンピック開会式

 米国など西側諸国が北京オリンピックに対する外交ボイコットを表明する中、中東からはエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールのリーダーがオリンピック開会式に参加した。これらの国から選手は1人も競技に参加しておらず、彼らが中国との関係を重視して出席したことがうかがえる。

 ちなみに、今回初めて冬季オリンピックにサウジアラビアから選手1人が参加した。

 

3. チュニジア:大統領が最高司法評議会を解体し強権化を進める

 2月6日、チュニジアのサイード大統領は裁判官の任免権を持つ最高司法評議会の解体を発表し、12日には自らが選出した人物を委員とする新たな暫定評議会の設置を発表した。この動きに対し同国の裁判官はストライキを実施し、国際社会からも批判が出ている。チュニジアは長らく「アラブの春の唯一の成功例」とされてきたが、同大統領は2021年7月に突然首相を解任し9月には自らの人選で新首相を任命(行政権を掌握)、議会は停止されたままで(立法権を掌握)、今回の司法権の掌握で大統領は権力の集中をさらに進めた。2022年8月27~28日にはチュニジアで「TICAD8」が開催される予定だが、今後の状況の展開には注意が必要だ。

 

4. トルコ/UAE:エルドアン大統領が9年ぶりにUAEを訪問

 2月14~15日の日程で、トルコのエルドアン大統領が9年ぶりにUAEを訪問し、防衛、貿易、気候変動など多岐にわたる13の合意を締結した。トルコとUAEは過去数年間にわたって対立関係にあり、カタール断交やリビア内戦において互いに対立する側を支援し、東地中海のガス田開発においてもUAEはトルコと対立する側を支持してきた。今回の関係融和の背景には、トルコ経済の悪化によるトルコの外交姿勢の変化や、安定のために地域諸国との融和を求めるUAEの外交政策の変化があるとみられる。

 

5. イスラエル/バーレーン:ベネット首相がバーレーンを初訪問

 2月14~15日の日程で、イスラエルのベネット首相が同国首相として初めてバーレーンを公式訪問し、ハマド国王やサルマン皇太子兼首相などと会談を行った。両国間には正式な外交関係が無かったが、2020年9月に「アブラハム合意」に署名し国交正常化に合意した。バーレーンはスンニ派の王家が権力を握る王国だが、国民の多数はシーア派で、同じシーア派のイランが影響力を持つ。2月2日にはイスラエルのガンツ国防相も同国を訪問し防衛協定を締結するなど、イランに対する懸念を共有する両国が関係強化に動いている。

 

 

6. リビア情勢

  • 2月10日、代表議会(HoR)がバシャガ元内相を次期首相に指名した。2週間以内にHoRに閣僚名簿を提出し承認されればバシャガ新内閣が発足する。ロシア外務省報道官やハフタル将軍率いるリビア国民軍(LNA)報道官も新首相の指名を歓迎した。バシャガ新政権はドゥベイバ暫定政権を引き継ぐことになるが、当のドゥベイバ首相はHoRによる一方的な新首相の指名を認めず首相職を辞任しないと反発している。なお、同日午前には、ドゥベイバ首相が乗った車が狙撃される暗殺未遂事件が発生した。仮にドゥベイバ首相が辞任せずバシャガ新政権が成立すると、1国に同時に2人の首相、2つの政府が誕生することになってしまい、リビア情勢は再び混迷を極めそうだ。
  • 2月7日、HoRは憲法改正後14か月以内に選挙を実施する案を全会一致で可決した。2021年12月には憲法改正を経ずに選挙を強行しようとしたが失敗し、改めて改憲後に選挙を実施することになった。2月10日にHoRは、リビアの3地域から24人の専門家を集めて委員会を作り改憲案をまとめる案を可決し、2か月以内に改憲案をまとめた後、国民投票に付される予定だ。選挙は2023年にずれ込むとみられる。
  • 2021年のトルコからの輸入が、前年比65%増加し、24.4億ドルに。トルコからの輸入品目は化学製品、家具、紙・木材、宝飾・衣料品、穀物・豆類など。2022年1月のトルコからの輸入は、前年同月比89%増加した。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

 

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