マレーシア経済:資源価格上昇、半導体需要増で輸出好調、経済は堅調に推移(マンスリーレポート5月号)
2022年05月12日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2020年第2四半期の実質GDP成長率は、COVID-19抑制のためのロックダウンが実施されたことにより内需が下押しされ大幅に落ち込んだ(前年同期比▲17.2%)。通年では▲5.6%となり、2009年の金融危機(▲1.9%)以来のマイナスを記録、1998年のアジア通貨危機(▲7.4%) 以降最大の落ち込みとなった。2021年は再びロックダウンが実施され第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比▲4.5%となったが、第4四半期にはロックダウンが緩和され持ち直した(同+3.6%)。2022年に入りCOVID-19は再拡大したが、厳しいロックダウンは実施されず経済活動は回復している。先行きについては、回復が続くとみられる。引き続き半導体製品およびその部品の外需、コモディティ価格の上昇の恩恵を受け輸出が好調さを維持し、消費者・企業の信頼感も回復し国内の消費・生産が勢いを増すだろう。IMF、世界銀行、ADBによる2022年の実質GDP成長率見通しはそれぞれ+5.6%、+5.8%、+6.0%と前年の+3.1%を上回る見通し。注目点は、特に投資環境に重要な影響をもたらす政治情勢だ。選挙なき政権交代が2年間で2度続き政局が安定しない状態が続いている。
生産: 堅調に推移している。3月の鉱工業生産は前年同月比+5.1%と、前月(同+4.0%)より伸びが上回った。電気・電子製品含む製造業(全体の比率68%)の生産(同+5.2%)がけん引した。先行きは、引き続き堅調に推移するとみられる。しかし、生産者物価指数(PPI)が上昇しており生産コストが増加するため経営が圧迫され生産活動に影響する可能性がある。
貿易:好調を維持している。輸出入とも伸びは2桁台が続いており3月には輸出入とも過去最高額を更新した。3月の輸出額は前年同月比+25.4%の1,316.35億リンギット(約301億ドル)だった。パーム油(同+69.2%)や半導体需要を追い風に電気・電子製品(同+32.8%)の輸出が伸びている。輸入額は同+29.9%の1,049.35億リンギット(約240億ドル)。製造業向けの原材料・中間財の輸入が増加したことに加え内需の回復が寄与した。貿易収支は267億リンギット(約61億ドル)の黒字。今後も資源価格の上昇や欧米などでの景気回復に伴い輸出は好調を維持するだろう。
物価: 消費者物価指数(CPI)は、安定的に推移している。3月のCPIは前年同月比+2.2%と前月の同+2.2%から伸びが横ばいだった。上昇は1年2か月連続。世界的なサプライチェーンの制約や需要増が押し上げ要因となっている。特に生産者物価指数(PPI)の上昇ペースが加速している。サプライチェーンの制約は年後半に改善されるとみられるが、それまで物価上昇は続くだろう。
金融政策: 緩和を解除。5月11日、0.25%引き上げ2.00%にした。それまで政策金利は2020年7月以降、過去最低水準である1.75%を維持していた。インフレ圧力の高まりと米国などの利上げ開始が懸念される中、物価は安定的に推移しているため年内の利上げは緩やかなペースを保つだろう。
財政政策: アジア通貨危機後の1998年以降、慢性的な赤字が続いている。COVID-19対策のため景気刺激策や税収減により2020年の財政収支GDP比は当初予算▲3.2%から▲6.2%に拡大した。今後は、景気回復による税収増、税制改革、歳入の脱石油依存などで財政が改善していくことが期待されている。
為替: 4月以降、下落している。米国の金融引き締め、中国でのロックダウン、ウクライナ情勢の悪化などが懸念されリスク回避姿勢が強まり全般的にアジア通貨が売られており、同国も同様の動きになっている。しかし、好調な輸出、潤沢な外貨準備高などが下支えするため他国と比較し急激な資金流出にはならないとみられるため、通貨安は進んでも緩やかなペースになるだろう。
株価: COVID-19拡大が始まった2020年3月、10年ぶりの安値を記録。その後国内でのCOVID-19拡大や政局の混迷により下落した時期もあったものの比較的安定的に推移している。今後も、COVID-19や政局次第ではあるが、安定的に推移すると予想する。
以上
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