中国経済:ゼロコロナ政策で、経済成長に陰り(マンスリーレポート5月号)
2022年05月12日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:回復ペースが緩やかになっている。2021年の実質GDP成長率は前年(+2.2%)の反動増で+8.1%と2011年(+9.6%)以来の大幅な伸びとなった。2022年第1四半期の実質GDP成長率は+4.8%となり前期の+4.0%を上回った。第2次産業は+6.4%となり前期の+2.5%から回復した一方、第3次産業は不動産セクターの落ち込み(▲2.0%)やゼロコロナ政策の影響を大きく受け+4.0%。前期の+4.8%から伸びが低下した。しかし、3月以降、COVID-19抑制のため上海含む都市部でのロックダウンの強化により特に消費が落ち込んでおり生産も持ち直しのペースが緩慢になっている。先行きについては、金融緩和・財政支出が下支えするもののゼロコロナ政策が重石となり経済成長は緩慢になるとみられる。2022年の実質GDP成長率政府目標は+5.5%前後。IMF、世界銀行、ADBの2022年の同見通しは、それぞれ+4.4%、+5.5%、+5.0%。現時点において政府目標達成は厳しいと予想する。注目点は、ゼロコロナ政策がいつまで続くかだ。*すべて前年比または前年同期比。
個人消費:落ち込んでいる。3月の小売売上高は前年同月比▲3.5%と1~2月の前年同期比+6.7%からマイナスに転じた。今後、ロックダウンによりさらに落ち込む可能性が高い。
生産:持ち直しのペースは緩慢になっている。3月の鉱工業生産は、前年同月比+5.0%と1~2月の前年同期比+7.5%より伸びが低下。今後、ロックダウンによりさらに持ち直しのペースが緩慢になると予想する。
固定資産投資:好調を維持している。1~3月の固定資産投資(年初来累計)は前年同期比+9.3%と2021年1~12月(通年)の同+4.9%から伸びが拡大。うち政府のインフラ投資(同+8.5%)がけん引。一方、不動産投資(同+0.7%)は伸び悩みが続いている。今後は、主に政府によるインフラ投資が下支えするとみられる。
貿易:鈍化している。4月の輸出額は前年同月比+3.9%の2,736億ドルと2020年6月以来の低い伸びになった。ロックダウンによる人手不足・物流の混乱の影響もあるが、特に輸出先の欧米でインフレが加速し需要が減少したことが響いたようだ。4月の輸入額は前年同月と横ばいの2,225億ドルだった。輸出拡大、輸入横ばいで貿易収支は511.2億ドルの黒字(3月は473.8億ドル)。今後はCOVID-19の巣ごもり需要が剥落し輸出は緩やかな伸びとなり、輸入も不動産セクターの伸び悩みなどで建材などの輸入が鈍化する可能性がある。
物価:上昇傾向にある。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.1%と前月の同+1.5%から伸びが加速した。一方、卸売物価指数(PPI)は同+8.0%と前月の同+8.3%から減速。PPIからCPIへの転嫁は進まないと予想されるためCPIの上昇傾向は続くものの緩慢を維持するだろう。
金融政策:緩和を維持。4月に2022年になってから初の預金準備率の引き下げ(0.25ポイント)を実施。全国人民代表大会で発表された9つの重点分野に緩和的金融政策の実施強化が盛り込まれており、年内は緩和が続くだろう。
財政政策:COVID-19対策、インフラ支出を積極的に実施している。第1四半期の財政収支GDP比はわずか▲0.6%と政府目標の▲2.8%前後より下回っており今のところ支出の余地があるといえる。2020年は▲3.7%、2021年は▲3.1%だった。
為替:下落している。4月以降、下落ペースが加速。中国の景気減速や米中間での金融政策の違いを反映した国債利回り(5年)の金利差拡大(米債が中国債の利回りを上回っている)を背景に元売りドル買いが進んでいる。政府介入により下落幅を抑える可能性もあろう。
株価:下落基調にある。2021年12月以降元安加速、ロックダウン継続、経済指標の悪化などで下落している。今後も下落基調がしばらく継続するとみられる。
以上
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