タイ経済:インフレ率、過去8年で最大を記録、成長への足かせに(マンスリーレポート5月号)

2022年05月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復に向かっている。ただし、2021年の実質GDP成長率は+1.6%と、COVID-19拡大の影響で落ち込んだ2020年の▲6.2%から持ち直したものの回復ペースは遅い。特にGDPの約2割を占める観光業の低迷により打撃を受けている。一方、プラスに大きく寄与しているのは輸出。先行きについては、回復は続くとみられるものの、ウクライナ情勢の影響でインフレ圧力が強まっていることに加えサプライチェーンの混乱が経済活動の足かせとなる。観光業は海外からの入国制限の緩和により徐々に持ち直すとみられるが、COVID-19以前、観光客のうち約3割を占めた中国では、感染拡大が続いているため中国からの観光客はしばらく期待できない。IMF、世界銀行による2022年の実質GDP成長率の見通しは共に+4.3%、ADBは+4.5%。しかし、世界経済の先行きに不透明感が強まっているため+4%台の維持は厳しい可能性がある。注目点は、観光業がいかに早急に回復するかだ。政府は観光関連事業を後押しするためCOVID-19に対する規制を緩和し続けるだろう。

 

    経済成長率見通し 出所 IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

個人消費:回復しつつある。2月の小売売上高は前年同月比+7.46%と1月の同+12.95%より伸びは縮小したものの前年2月の伸びが前年1月の同▲7.27%から同+1%へとプラスに転じたため伸びの縮小はベース効果が影響している。先行きは、緩やかな回復が続くとみられるが、家計債務の拡大、インフレ高進が消費者の購買意欲を抑制する可能性がある。

 

生産:足踏み状態にある。 3月の鉱工業生産は前年同月比▲0.1%と7か月ぶりにマイナスとなった。ウクライナ情勢の悪化に伴う物流停滞、燃料価格の高騰、COVID-19に起因する人手不足などがマイナス要因となった。先行きは、引き続き前述のマイナス要因が懸念されるものの、COVID-19対策の規制の緩和が進み持ち直しの動きになるとみられる。

 

貿易:堅調に推移している。3月の輸出額は主要工業製品が大幅に伸び前年同月比+19.5%の288.6億ドルと1991年の統計開始以来、月ベースで過去最大の額となった。今後は、ウクライナ情勢の影響は限定的であり世界的な食料不足はタイの農産品輸出の増加につながるとみられ見通しは明るいだろう。3月の輸入額は同+18.0%の274.6億ドル。輸出増加に伴う原料調達、内需拡大により輸入は拡大しており、1~3月の貿易収支は9.4億ドルの赤字になった。資源価格の高騰により輸入物価上昇圧力が強まり赤字が継続する可能性がある。

 

    主要経済指標 出所 タイ国家経済開発審議会、タイ関税局よりSCGR作成

 

物価:上昇基調が続いている。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.65%と2008年9月の同+9.1%に次ぐ高水準となった3月の同+5.73%より伸びは低下したものの高い水準を維持。特に肉などの生鮮食品やエネルギー価格の上昇が起因している。先行きも引き続き上昇基調が続くとみられる。

 

金融政策:緩和を維持している。2020年5月以降政策金利は過去最低水準である0.5%を維持してしる。CPIは、すでにインフレ目標である+1~4%を上回っており、早ければ6月の会合で利上げに動く可能性がある。

 

財政政策:景気刺激策を続けている。2021年の財政収支はGDP比▲4.9%。2022年はさらに悪化し▲6%近くに達するとみられる。しかし、公的債務や対外債務は政府が設定している上限を超えてない。

 

    物価 出所 タイ商務省よりSCGR作成

 

為替: 2022年3月以降、下落が続いている。2020年3月のCOVID-19拡大の際急落、その後再拡大前の2021年1月までは経常黒字や高い外貨準備高に支えられバーツ高が続いた。2021年2月以降下落が続き12月から2022年3月の再拡大前までは持ち直していた。先行きは、米国による急ピッチな利上げや観光業の回復に対する不確実性などを背景に緩やかに下落するとみられる。

 

株価:やや下落している。ウクライナ情勢や米国の金融引き締めに対する懸念が高まり下落。2021年は世界的に大幅な資金余剰であったため株高が進行し、タイも上昇していた。世界的な景気に対する不透明感が高まりつつあるため軟調になる可能性がある。    

為替・株価 出所 BloombergよりSCGR作成

 

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