インド経済:ウクライナ情勢を受けインフレ高進、内需の勢いが鈍化(マンスリーレポート5月号)

2022年05月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いているものの勢いは弱まっている。2020/21年度(2020年4月~2021年3月)の実質GDP成長率はCOVID-19抑制のため厳しいロックダウンが実施され▲6.6%まで落ち込んだ。ただし、2020/21年度第3四半期(2020年10~12月)以降は、四半期ベースの実質GDP成長率はプラスを維持。2021年5月に再拡大のピークに達した際には、部分的なロックダウンなど柔軟な対策が実施されたため、前年より経済への影響を抑制できた。2022年年初の再拡大はピークアウト後感染者数が急減し経済へのダメージは限定的であったが、ウクライナ情勢の影響でインフレが高進し内需を押し下げている。特に輸入依存度が高い原油、肥料、食用油などの価格高騰が企業・家計への負担になっている。先行きについては、回復は続くもののそのペースは弱くなるとみられる。インフレ、通貨安、利上げ、記録的な熱波による農産物の生産減少などが逆風となり投資・消費が抑制されることが懸念される。IMF、世界銀行、ADBによる2022/23年度の実質GDP成長率の見通しはそれぞれ+6.9%、+6.8%、+8.0%。注目点は、燃料への補助金などの増加により政府支出が増加し、インフラ整備や国内製造業を奨励する生産連動型優遇策(PLI)への支出を削減せざるを得なくなる可能性があることだ。

 

    経済成長見通し 出所 IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

生産:鈍化している。2021年3月以降、鉱工業生産は前年同月比で伸びはプラスを維持しているものの2022年に入り伸びは低下。3月の鉱工業生産は同+1.7%。今後については、金融引き締め、卸売物価価格の上昇、サプライチェーンの制約、電力不足などが生産活動の足かせとなりさらに鈍化することが懸念される。

 

貿易:好調を維持している。輸出は2021年3月以降、2桁台の伸びを維持(2021年4月は前年同月比+195.7%)。2022年3月は同+19.8%の422億ドル。先行きについては、通貨安の恩恵を受け好調を維持するとみられる。世界各国、特に中東・アフリカ諸国でウクライナからの小麦の輸出が滞っているため、インド政府は同輸出を増加する方針だが国内で熱波による生産減少が懸念されているため、同方針を調整または再検討する可能性がある。輸入も2021年3月以降、2桁台の伸びを維持(2021年4月は同+167%)。2022年3月は同+24.2%の607億ドル。コモディティ価格の高騰により輸入額が増加し貿易赤字の拡大が懸念される。

 

    主要経済指標 出所 インド中央統計局、インド商業統計局よりSCGR作成

 

物価:上昇ペースが加速している。3月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+6.95%と3か月連続でインフレ目標である+2~6%を上回っている。3月の卸売物価指数(PPI)は同+14.55%と12か月連続で上昇幅は+10%台の高止まりになっており、企業収益を悪化させている。今後も主にコモディティ価格の上昇が続くことにより年内はインフレ目標を上回るだろう。

 

金融政策:インド準備銀行(RBI、中央銀行)はインフレ加速に対応し6月の会合を待たず5月4日に政策金利を0.4%引き上げ4.40%とし現金準備率(CRR)も0.5%引き上げ4.5%とした。インフレ加速を抑制するための引き上げであり、緩和スタンスは維持する意向。

 

財政政策:燃料税引き下げを2021年11月以降実施。今後、同引き下げによる政府支出の負担が増え、公共設備投資やPLIへの支出が縮小される可能性がある。2月発表の2022/23年度予算案では公共設備投資は前年度比+24.5%。2021/22年度の財政収支(連邦政府)のGDP比は▲6.9%(見込み)。2022/23年度は同▲6.4%に縮小することを目指している。

 

    物価 インド中東統計局よりSCGR作成

 

為替: 下落している。5月初旬に1ドル76.93ルピーと史上最安値を更新。4月初旬、RBIによる介入や原油価格の低下により反騰する場面もあった。年内は米国による利上げなどでドル買いルピー売りの動きが続きルピーは下落しつづけるとみられる。

 

株価:4月初旬以降、下落基調が続いている。2020年3月に急落後、COVID-19拡大にもかかわらず楽観的な景気回復見通しや個人投資家の新規株式公開(IPO)ブームなどを背景に2021年10月(史上最高値を更新)まで上昇傾向が続いた。今後は経済成長の鈍化が懸念され軟調に推移する可能性がある。     

 

為替・株価 出所 BloombergよりSCGR作成

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。