インドネシア経済:足元、輸出好調も先行きはパーム油輸出禁止で不透明に(マンスリーレポート5月号)

2022年05月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2021年第2四半期以降プラスに転じ第4四半期の実質GDP成長率は前年同期比+5.02%、2022年第1四半期は同+5.01%とCOVID-19以前の平均的な伸びの水準まで達した。COVID-19がピークアウトしたため国内の経済活動が軌道に乗り始めている。特にウクライナ情勢の影響で世界的にコモディティが不足し、輸出が好調を維持している。先行きについては、インフレが懸念されるものの回復が続くとみられる。IMF、世界銀行、ADBとも2022年は+5%台まで回復すると予測している。注目点はパーム油輸出禁止がいつまで続くかだ。ユーラシアグループは、1月に石炭輸出の禁止が発表されたものの2月には解除しているため、パーム油に関しても同じようにそう長くは続かないと想定している。

 

 

個人消費:回復が続いている。3月の小売売上高は前年同月比+8.6%と前月の同+12.9%より伸びは下回ったものの、COVID-19がピークアウトしラマダン(断食月:4/2~5/2)を控え需要が高まったため前月比では+2.0%と前月の▲4.5%よりプラスに転じた。今後3~6か月間は、4月からの付加価値税(VAT)の増税、物価上昇、特に食料品価格の上昇による消費意欲の減退が懸念されるが、レバラン(ラマダン明けの祝祭:5/2~5/3)ボーナスが支給され消費が加速するとみられる。

 

生産: 回復が続いている。2021年8月以降、製造業PMIは景気の節目となる50を上回っている。だたし、先行きについてはウクライナ情勢による供給網の分断および卸売物価の上昇による生産活動の鈍化が懸念される。

 

貿易: 輸出入とも、3月過去最高額を更新。ウクライナ情勢に伴う資源価格の上昇で3月の輸出額は前年同月比+44.0%の265億ドルだった。今後、パーム油輸出禁止、最大の輸出先である中国での景気減速などが下押し圧力になるとみられる。3月の輸入額は内需の回復により同+31.0%の220億ドルだった。今後、輸入物価上昇、ルピア安により輸入を手控える動きになる可能性がある。

    

 

物価: 上昇基調。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.47%と前月の同+2.64%を上回った。2021年6月以降、伸びが加速しているもののインフレターゲットである+2~4%の範囲内にとどまっている。2022年は資源・食料品価格の上昇によりCPIが加速しインフレターゲットを超えるとみられる。

 

金融政策:引き締めに向かっている。米国の利上げを受け中央銀行は、預金準備率を3月から9月の間で300bp引き上げることを決定している。年後半には利上げが開始される見込み。

 

財政政策: COVID-19対策のため支出が増加し2021年度の財政収支はGDP比▲4.65%だった。2022年度の政府見通しは▲4.85%。2020年3月に時限措置で上限である▲3%の適用を停止しているが、2023年度には▲3%以内の縮小を目指している。

 

    

 

為替: 4月22日に政府がパーム油輸出禁止を発表したことが嫌気され下落している。9か月ぶりの安値となった。それ以前は資源価格上昇と低インフレが下支えし、ウクライナ情勢の悪化、米国の利上げにもかかわらず緩やかな下落にとどまっていた。2023年までルピア安基調になると予想される。

 

株価:ジャカルタ総合指数は、2020年3月のCOVID-19感染拡大の影響により急落後、上昇基調が継続。2022年4月に過去最高値を更新した。パーム油輸出禁止発表後は反落。パーム油輸出禁止が解除されるまで軟調な動きが続く可能性がある。

    

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