「前大統領の死去に伴い、ムハンマド・アブダビ皇太子がUAE大統領に」中東フラッシュレポート(2022年5月前半号)
調査レポート
2022年05月23日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2022年5月18日執筆
1.UAE:ハリーファ大統領が死去、ムハンマド・アブダビ皇太子が新大統領に
5月13日、ハリーファ・アラブ首長国連邦(UAE)大統領が死去(享年73歳)。翌14日にはUAEを構成する7首長国のトップが集まる連邦最高評議会で、ムハンマド・ビン・ザーイド・アブダビ皇太子(MbZ)が新大統領に選出された。故ハリーファ前大統領は、2014年に病床に伏してから表には出ず、実権は既にMbZが掌握してきたため、今回の王位継承によってUAEの政策に大きな変更などは生じないと予想される。弔問のため、エジプトのシシ大統領やヨルダンのアブダッラー2世国王、英国のジョンソン首相、フランスのマクロン大統領などが次々にUAEを訪問した。
米国からはハリス副大統領、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、バーンズCIA長官などの一団が5月16日に同国を訪問した。米国とUAEは、イエメンのフーシ派に対する外国テロ組織指定解除やF-35戦闘機売却交渉の中断、国連安全保障理事会でのロシア非難決議案に対するUAEの棄権、米国の石油増産要請にUAEが応じないなど昨今関係がギクシャクしており、バイデン政権は今回の訪問を二国間関係改善の契機にしたいと考えている。
2.アサド大統領のイラン訪問
5月8日、シリアのアサド大統領が3年ぶりにイランを訪問。ハメネイ最高指導者やライーシ大統領と会談し、二国間関係のさらなる強化で合意した。
2011年以降続く内戦で反体制派を武力で弾圧してきたアサド政権に対し欧米は厳しい制裁を続けるが、UAEなどアラブ諸国の中には、戦略的な判断からシリアとの関係改善を模索する国も出てきている。
3.イスラエル/パレスチナ:米国籍を持つパレスチナ人ジャーナリストが取材中に射殺される
5月11日、衛星TV局アルジャジーラの著名記者が、パレスチナ西岸地区でのイスラエルの軍事作戦を取材中に頭部に銃弾を受けて亡くなった。同氏は米国籍を持つ51歳のパレスチナ人女性。銃撃はイスラエル軍によるものとみられているが、イスラエル政府はパレスチナ側による発砲だった可能性もあるとしてイスラエル・パレスチナ両者による合同調査を提案したものの、パレスチナ側はイスラエル軍による犯罪の調査にイスラエルが関与することを拒否するとして、独立した第3者による調査を要求している。なお、5月13日に東エルサレムで執り行われた同氏の葬儀に対してもイスラエル警察が妨害し、大きな衝突が発生した。
4.イラン核合意(JCPOA)再建交渉再開に向けた調整が進む
5月12日、カタールのタミーム首長がイランを訪問し、ハメネイ最高指導者やライーシ大統領との会談を実施。二国間や地域の問題に加えて、JCPOA再建交渉に関する意見交換などが行われたもよう。同交渉に参加するEUの交渉担当官も5月11-12日にテヘランを訪問しており、JCPOAの早期再建を望むEUや、米・イラン双方との交渉チャンネルを持つカタールによる裏での調整が進んでいる。2021年4月からウィーンで行われてきたJCPOA再建交渉は、イランの革命防衛隊の外国テロ組織指定解除に米国が応じず、2022年3月以降中断している。
5.トルコ:4月のインフレ率が70%に上昇
トルコ統計局は、4月のインフレ率が+69.97%(前年同月比)と20年ぶりの高水準となったことを発表。前月比で+7.25%の上昇となった。特に上昇率が高かったのは運輸(+105.86%)や食品(+89.10%)。インフレ率急上昇の背景には、世界的なエネルギー・商品価格の高騰に加えて、昨年来のトルコリラの大幅下落やトルコ中央銀行が金利を上げないことなどが影響している。インフレ抑制のため各国は利上げに動くが、エルドアン大統領は独自の経済理論で利上げに強硬に反対し、トルコ中央銀行は4か月連続で金利を据え置いている。
6.リビア情勢
- 前号で紹介した、国連の仲介によりエジプトのカイロで行われている協議は、4月に行われた第1ラウンドに続いて5月15日から第2ラウンドが開始。国政選挙実施に必要なリビアの憲法基盤の整備について、リビア東部および西部の代表者が話し合いを続けており、5月28日までに詳細をまとめる予定。
- 5月17日、リビア東部を拠点とする代表議会(HoR)で2022年3月に承認されたバシャガ新首相率いる国家安定政府(GNS)が首都トリポリに強行突入したが、トリポリで政権の座を譲らないドゥベイバ首相率いる国民統一政府(GNU)を支持する武装勢力との間で銃撃戦が発生し、バシャガ氏は「流血沙汰を避けるため」いったんトリポリから撤退した。2022年3月以降バシャガ氏は何度かトリポリからの政権運営を実現すると発言してきたが、強行突入に挑んだのは今回が初めて。今回の衝突で今後の両政府の対立激化の可能性が指摘されるとともに、西部出身のバシャガ氏がトリポリで予想以上の抵抗に遭い短時間で撤退を余儀なくされたことが今後の情勢にどのような影響を与えるのかを見極める必要がある。
- 4月のリビアの月間産油量は日量90万バレルまで低下。GNUの退陣を求める武装勢力による油田および石油輸出施設などの閉鎖は4月中旬以降続いており、リビアの生産能力の約半分に当たる日量約60万バレルの石油生産が停止しているため、5月の月間産油量はさらなる低下が見込まれる。リビアの国家歳入の95%を占める石油収入が大きく失われることで、国家財政への悪影響が懸念される。
以上
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