インドネシア経済:輸出、過去最高額を更新、外需好調で引き続き拡大へ(マンスリーレポート6月号)

2022年06月08日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2021年第2四半期以降プラスに転じ第4四半期の実質GDP成長率は前年同期比+5.02%、2022年第1四半期は同+5.01%とCOVID-19以前の平均的な伸びの水準まで達した。COVID-19の感染がピークアウトしたため国内の経済活動が軌道に乗り始めている。特にウクライナ情勢の影響で世界的にコモディティが不足し、輸出が好調を維持している。先行きについては、インフレが懸念されるものの回復が続くとみられる。中央銀行による2022年の実質GDP成長率予測は+4.5~5.3%、IMF、世界銀行、ADBは+5%台まで回復すると予測。注目点は、インド、中国などの石炭需要の高まりにより価格高騰がいつまで続くかだ。6月の石炭指標価格(HBA)は1トン当たり323.91ドルと史上最高値を記録。インドでは発電用の石炭不足、中国では5月から石炭の輸入関税をゼロにしているため需要が高まっている。また、欧州では8月からのロシア産石炭の輸入禁止によりアジアからの供給確保に動き出している。

   インドネシア経済成長見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

個人消費:回復が続いている。4月の小売売上高(中央銀行予測)は前年同月比▲0.5%と前月の同+9.3%から伸びがマイナスに転落したものの前月比では+6.8%とプラスの伸びになる見込み(6月に確定)。中銀の調査によると、ラマダンの間に経済活動が活発になったことに加えレバラン(ラマダン明けの祝祭:5/2~5/3)を控えIT機器、飲食、衣類などほとんどの分野がプラスに寄与しているという。今後、4月からの付加価値税(VAT)の増税、物価上昇などによる消費マインドの悪化が懸念されるものの回復が続くとみられる。

 

生産: 回復が続いている。2021年8月以降、製造業PMIは景気の節目となる50を上回っているが、ウクライナ情勢による供給網の分断や卸売物価の上昇が響き5月は50.8と4月の51.9を下回った。先行きについては、需要の回復が続き緩やかに回復すると予想する。

 

貿易: 輸出は、4月過去最高額を更新、ウクライナ情勢に伴う資源価格の上昇で輸出額は前年同月比+47.8%の273億ドルだった。禁輸していたパーム油の輸出を5月中旬以降再開しており、今後外需の好調さを背景に輸出は拡大するだろう。4月の輸入額は前月(同+30.1%)より伸びは鈍化したものの内需の回復により同+22.0%の198億ドルだった。今後、輸入物価上昇、ルピア安により輸入を手控える動きになる可能性がある。

    主要経済指標(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

物価: 上昇基調。5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.55%と前月の同+3.47%を上回った。2021年6月以降、伸びが加速しているもののインフレターゲットである+2~4%の範囲内にとどまっている。今後、資源・食料品価格の上昇によりCPIが加速しインフレターゲットを超えるとみられる。

 

金融政策:引き締めに向かっている。米国の利上げを受け、中央銀行は、預金準備率を3月から9月の間に300bp引き上げることを決定している。年後半には利上げが開始される見込み。

 

財政政策: COVID-19対策のため支出が増加し2021年度の財政収支はGDP比▲4.65%だった。2022年度の政府見通しは▲4.85%だが、景気回復に伴い税収が増加し政府見通しより改善する可能性がある。2020年3月に時限措置で上限である▲3%の適用を停止しているが、2023年度には▲3%以内への縮小を目指している。

 

為替:下落している。5月中旬にパーム油輸出許可の発行が決定された後続伸する場面もあったが米国での積極的な利上げの可能性などが浮上し下落。今後も引き続き米国の利上げが継続しルピア安基調になると予想される。

 

物価(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

株価:ジャカルタ総合指数は、2020年3月のCOVID-19感染拡大の影響により急落後、上昇基調が継続、2022年4月に過去最高値を更新したものの5月はラマダン明け後、米国での株安などを嫌気し反落した。今後は米国の利上げで資金流出懸念はあるが、米国の株価の回復や国内の景気回復を背景に緩やかに上昇すると予想する。

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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