中国経済: GDP失速を受け財政・金融緩和加速へ(マンスリーレポート7月号)

2022年07月20日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復は低調。2022年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+0.4%となり前期の同+4.8%から失速した。前期比(季節調整済み)では▲2.6%。前期比でのマイナスはCOVID-19拡大の打撃を初めて受けた2020年第1四半期(同▲10.3%)以来となった。ゼロコロナ政策の下ロックダウンが実施されたことに加え、不動産セクターの低迷が響いた。先行きについては、経済は回復していくものの、COVID-19の再拡大などに対する不透明感と不動産セクターの低迷で下振れリスクが高まっており、勢いは鈍いと予想。景気は、ロックダウンが大幅に緩和された6月から持ち直しているが、2022年の実質GDP成長率政府目標である5.5%前後の達成は第2四半期のGDP失速を受け厳しくなった。政府は同目標を4%程度に下方修正する可能性がある。IMF、世界銀行、ADBによる2022年の実質GDP成長率の見通しは、それぞれ+4.4%、+4.3%、+5.0%。注目点は、経済減速により政府は財政・金融政策の緩和を加速させる可能性があることだ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:持ち直しの動き。6月の小売売上高はCOVID-19に対する規制緩和と物価上昇を背景に前年同月比+3.1%と5月の▲6.7%から伸びがプラスに転化。小売売上高の8.5%を占める自動車の売上は同+13.9%となり、9か月間続いていたマイナスからプラスに転じた。今後は、COVID-19拡大リスクはあるが、雇用状況が改善しつつあり、持ち直しの動きが続くと予想する。

 

生産:持ち直しつつある。6月の鉱工業生産は、前年同月比+3.9%と5月の同+0.7%から伸びが加速。サプライチェーンの分断が改善されたことにより自動車の生産(+16.2%)などが増加した。今後、政府による景気刺激策により自動車などの生産が加速することが期待され、持ち直しが続くとみられる。

 

固定資産投資:伸びが鈍化している。1~6月の固定資産投資(年初来累計)は前年同期比+6.1%と1~5月の同+6.2%から伸びやや鈍化。うちインフラ投資は同+7.1%と1~5月の同+6.4%より伸びが加速。一方、不動産投資が同▲5.4%と1~5月(同▲4.0)より落ち込んだ。今後も固定資産投資は、政府による投資が拡大するとみられるが、低調な伸びが続くだろう。

 

貿易:拡大している。6月の輸出額は前年同月比+17.9%の3,313億ドルと5月の同+16.9%から伸びが拡大した。新エネルギー車(EV)の需要が高まっており、自動車の輸出(同+52.4%の223億2,360万ドル)が増加している。6月の輸入額は同+1.0%の2,333億ドルと、5月(+4.1%)より鈍化。貿易収支は979億ドルの黒字(5月は788億ドル)。今後はEV輸出の増加や国内での政策支援が後押しするものの、世界経済がインフレ・利上げラッシュに見舞われるため、伸びは鈍化する可能性がある。

 

    主要経済指標(出所)中国国家統計局よりSCGR作成

 

主要経済指標(出所)中国国家統計局よりSCGR作成

 

物価:消費者物価指数(CPI)は上昇している。6月のCPIは前年同月比+2.5%と5月(同+2.1%)より伸びが拡大。一方、卸売物価指数(PPI)は同+6.1%と5月の同+6.4%から鈍化。年内、CPIは政府目標である+3%を上回らないとみられる。

 

金融政策:緩和を維持。4月に2022年になってから初の預金準備率の引き下げ(0.25ポイント)を実施。5月には5年物の最優遇貸出金利(LPR、住宅ローンのベンチマーク)を0.15%引き下げ4.45%とした。全国人民代表大会で発表された9つの重点分野に緩和的金融政策の実施強化が盛り込まれており、年内は緩和が続くだろう。

 

財政政策:COVID-19対策、インフラへの支出に加え、自動車購入税の減税などを実施している。第1四半期の財政収支GDP比は▲0.6%と政府目標の▲2.8%前後を下回っており、今のところ支出の余地があると言われる。中国財政省によると、2020年は▲3.7%、2021年は▲3.1%。年内は、地方のインフラ投資などで支出が増加するとみられる。 

 

   物価(出所)中国国家統計局よりSCGR作成

 

為替:下落傾向にある。4月中旬から5月中旬は大幅に下落したが、それ以降は小幅な下落にとどまっている。国内の景気減速や米中間での国債利回りの金利差拡大(米債が中国債の利回りを上回っていること)を背景に元売りドル買いが進んでいる。今後も通貨安傾向は続くと予想する。

 

株価:下落している。5月以降は、米国の株高、上海のロックダウンが解除に向かい政策に対する期待感から上昇していたが、7月初旬以降、COVID-19再拡大と不動産デベロッパーの資金繰り悪化などが懸念材料となり下落。今後、上述に加え米国の株安などが嫌気され下落が続くと予想。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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