フィリピン経済: 8月、好調な国内経済を受け追加利上げを実施(マンスリーレポート9月号)

2022年09月16日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子


経済概況・先行き・注目点:足元の経済は堅調に推移している。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+7.4%と、伸びは第1四半期の同+8.2%より鈍化したものの、5四半期連続で前年同期を上回った。ほとんどの地域でCOVID-19対策の警戒レベル(1~4段階)が最も緩い1になったこと、ワクチン接種が進んだこと、入国制限が緩和されたことなどが、経済回復に寄与した。GDPの約7割を占める個人消費は、インフレ高進による消費者心理の冷え込みにより、第1四半期の同+10.0%から同+8.6%に鈍化したものの、依然高い水準を維持した。先行きについては、観光業が軌道に乗り、主要政策である「ビルド・ビルド・ビルド」によるインフラ投資が後押しすることで、堅調さを維持するとみられる。ただし、ペソ安高進や世界経済の成長鈍化への懸念が高まっている。2022年の政府による実質GDP成長率見通しは+6.5~+7.5%。IMF、世界銀行、ADBの2022年の実質GDP成長率の見通しは、それぞれ+6.7%、+5.7%、+6.5%。注目点は、2021年末の大型台風によりサトウキビが不作で、砂糖が不足して価格が高騰していることだ。それにより一部コカ・コーラなどの清涼飲料水製造工場は、稼働を停止している。

 

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生産:回復している。製造業PMIは、8月は51.2となり、7月の50.8から改善した。景気の節目となる50を7か月連続で上回っている。同内訳は、生産高が、7月に6か月ぶりに下落したが8月には回復した一方、外需減少で新規輸出受注は低下した。今後は、政府の経済政策の実施などにより内需が増勢し、生産は回復が続くとみられる一方、供給網の混乱、インフレ、金利上昇、通貨安などが懸念材料となっている。

 

貿易:輸出は、減速している。7月の輸出額は前年同月比▲4.2%の62億ドルと、6月の同+1.0%からマイナスに転落した。4月、5月は同+6%台だった。輸出全体の5割強を占める電子製品が同▲7.9%と振るわなかった。中国でのロックダウンで供給網が混乱し、半導体の供給不足に陥ったことなどが影響したようだ。一方、大幅に伸びたのはココナツ油(同+56.7%)、金(同+56.8%)。今後も、中国でのロックダウンにより輸出が伸び悩む可能性がある。7月の輸入額は同+21.5%の121億ドル。鉱物燃料・潤滑油などが同+86.5%と6月に続き大幅に伸びた。内需の増勢が続いていることに加え、コモディティ価格の高騰、ペソ安が影響し、今後しばらく輸入拡大が続くだろう。そのため、貿易赤字の拡大(7月に過去最大を記録)が大きな懸念事項になっており、この状況はしばらく続くとみられる。

 

    主要経済指標(出所)フィリピン統計機構よりSCGR作成

 

物価:高水準にとどまっている。8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+6.3%。7月の同+6.4%よりわずかに鈍化したが、インフレ目標である+2~+4%を5か月連続で上回っている。全体の40%弱を占める食料品・非アルコール飲料の価格が同+6.3%(7月同+6.9%)、全体の21%を占める燃料価格が反映される運輸関連物価が同+18.1%(7月同+14.6%)と7月より鈍化しているものの高水準になっている。政府は公共交通車両の運転手や農家への燃料補助を継続する方針。国内での燃料の大半を輸入に頼っているが、ペソ安による輸入物価の上昇を受けインフレが加速する可能性がある。

 

金融政策:利上げが続いている。中央銀行は、政策金利を5月と6月に0.25%ptずつ引き上げ、7月には緊急で金融政策決定会合を開き、0.75%ptの大幅引き上げを実施、8月にも0.50%pt引き上げ3.75%とした。国内の景気が回復基調であるため、インフレ加速を抑えることを優先した。中銀は、通貨安を下支えするため、年内に追加利上げを実施するとみられる。

 

財政政策:大幅な赤字が続いている。財政収支のGDP比は2019年の▲3.4%から2020年は▲7.6%、さらに2021年は▲8.6%にまで悪化した。2022年1~6月の政府支出総額は前年同期比+8.9%の2兆4,017億ペソ(420億ドル)、うちインフラ支出は前年同期比+12.2%の4,779億ペソ(84億ドル、GDP比2.3%)だった。2022年の財政収支の政府見通しはGDP比▲7.7%。マルコス政権は、インフラ支出は削減せず、GDP比で5~6%を維持し、経済成長による税収増に取り組む意向。

 

    物価(出所)フィリピン統計機構よりSCGR作成

 

為替(対ドル):下落している。米国の利上げ加速観測が強まったことに加え、欧州でのエネルギー危機の深刻化、中国でのロックダウンによる景気後退などが嫌気され、ペソ安が進み過去最安値を更新した。同国での利上げ期待が支援材料になる一方、米国での利上げや貿易赤字の拡大が懸念され、年内はペソ安基調が続くだろう。

 

株価:上昇基調。良好な主要経済指標、企業利益の改善などを好感し、米国の利上げ加速観測を織り込みながら、フィリピン総合指数は堅調に推移。年初から7月初旬までの下落率は約12%だった。今後、経済成長が期待され、緩やかな上昇が続くと予想される。

 

     為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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