「オマーンが仲介する形で米国とイランが核協議を開始」 中東フラッシュレポート(2025年4月号)

2025年05月23日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

2025年5月15日執筆


1.米国/イラン:オマーンが仲介する形で米・イランが核協議を開始

 4月12日、米国のウィトコフ特使率いる交渉団とイランのアラグチ外相率いる交渉団が、仲介国であるオマーンの首都マスカットで核協議を行った。協議はそれぞれ別の部屋に居る代表団の間をオマーンのバドル外相が仲介する形の間接協議だったが、協議の最後にウィトコフ氏とアラグチ氏が直接言葉を交わす機会があったとのこと。その1週間後の4月19日には、イタリアのローマで第2回目の協議が実施され、さらにその1週間後の4月26日には再度マスカットで第3回目の協議が実施された。

 

 なお、アラグチ氏は、ローマでの協議の前の4月17日にはロシアを訪問しプーチン大統領との会談を実施。ローマでの協議後の4月23日には中国を訪問し、王毅外相との会談を実施して米国との核協議の進捗を報告している。ロシアも中国も、2015年に成立したイラン核合意(JCPOA)の当事国であり、何らかの新たな合意が結ばれる際にも関与するものと考えられる。ウィトコフ、アラグチ両氏は、JCPOAのほかの当事国であった欧州3か国との協議も随時実施しており、今後の協議の進展が注目される。




2.トルコ/イスラエル:シリアを巡ってトルコ・イスラエル間の緊張が高まる

アサド政権崩壊後のシリアを巡って、隣国のトルコとイスラエルの関係が悪化している。アサド政権崩壊後にシリアの権力を握った「シャーム解放機構(HTS)」とそのトップであったシャラア暫定大統領は、過去にトルコから継続的に支援を受けてきたことからトルコと関係が強く、トルコはシリアを軍事面で支援することで影響力をさらに拡大しようとしている(シャラア暫定大統領は、就任以降、既にトルコを2回訪問している)。

 

 対して、元アルカイダ戦闘員でイスラム過激派出身のシャラア氏に不信感を持つイスラエルは、アサド政権崩壊直後からシリアの軍事基地を含む各種施設やミサイル、航空機などへの空爆を繰り返し行い(計500回以上)、シリアとイスラエルの間にある緩衝地帯やシリア領内の一部地域も「自衛のため」として占領を継続している。トルコ軍は新生シリア軍の支援のためにシリア国内の基地に駐留することも考えており、トルコとイスラエルの直接衝突が発生するリスクが高まっている。




3.シリア:サウジアラビアとカタールがシリアの世界銀行に対する債務を肩代わり

 4月27日、サウジアラビアとカタールの両政府は、シリアの世界銀行に対する未払い債務を肩代わりして返済することを発表した。債務総額は1,500万ドル。シリアでは2024年12月にアサド政権が崩壊し、新たな暫定政権が発足した。新政権は14年間にわたる内戦で荒廃した国土復興のための資金が必要だが、いまだに残るアサド政権時代のシリアに対して科された経済制裁が復興の足かせとなっている。シリア新政権は地域の主要国であるトルコや湾岸諸国との関係構築を積極的に推し進めており、トルコも湾岸諸国も新生シリアを支援する姿勢を明確にしている。




4.フランス/パレスチナ:フランスがパレスチナを国家承認する可能性に言及

 4月9日、フランスのマクロン大統領は、6月にニューヨークの国連本部でサウジアラビアと共同で開催する会議で、パレスチナを独立国家として承認する可能性がある、とフランスメディアに明らかにした。また、そうすることで、逆に、現在イスラエルを国家承認していないイランやアラブ諸国などがイスラエルを承認する方向に動く可能性にも言及した。パレスチナ自治政府の外務省は、フランスによるパレスチナ国家承認を「正しい方向への一歩」と歓迎したが、イスラエルのサアル外相は「一方的な“架空の”パレスチナ国家の承認はハマスを後押しするだけだ」と厳しく批判した。




5.フランス/アルジェリア:両政府が互いに外交官を国外退去処分に

 4月14日、アルジェリア政府はフランスの外交官12人に48時間以内の国外退去を命じた。これは、フランス駐在のアルジェリア領事館員を含むアルジェリア人3人が、フランスに亡命しているアルジェリア人反政府活動家の誘拐事件に関与したとして、フランス検察が3人を拘束・起訴したことを受けて行われた。翌15日には、フランス政府が、アルジェリア外交官および領事館職員12人に対する国外追放と在アルジェリア・フランス大使の本国召還を発表した。アルジェリアと旧宗主国であるフランスとの間での外交対立がエスカレートしている。




6.米国/エジプト:トランプ米大統領が米船舶のスエズ運河無料通航を主張

 4月26日、トランプ米大統領はSNS「トゥルース・ソーシャル」の自身のアカウントに、「米国の軍艦および商船は、パナマ運河とスエズ運河を無料で通航できるべきだ。これらの運河は米国無しでは存在しなかった。ルビオ米国務長官に直ちに対処するよう指示した。」と投稿した。トランプ大統領は、中米のパナマ運河の通航に関してこれまで繰り返し不平を述べてきたが、スエズ運河の通航に関してはあまり言及してこなかった。1956年にスエズ運河を国有化し、現在同運河を管理するエジプトでは、トランプ大統領の発言を「ナンセンス」、「歴史認識が欠如している」、「主権侵害であり、根拠を欠く威嚇・脅迫である」などとして、発言に対する反発が広まっている。




7.イラク情勢

  • 4月1日、スーダーニ首相がシリアのシャラア暫定大統領との初めての電話会談を実施した。シャラア氏は過去にイラク国内でアルカイダ戦闘員として対米闘争に参加して投獄され、釈放後シリアに戻ってアルカイダのシリア支部を立ち上げイスラム国(IS)ともつながりのあるイスラム過激主義を背景に持つ人物であるため、特にイラクのシーア派政治家や一部国民はシャラア氏に対して強い警戒感を持っている。
  • 4月9日、独立高等選挙管理委員会(IHEC)は、議会選挙を11月11日に実施することを公式に確定した。スーダーニ首相は出馬を表明しているが、首相2期目を目指す意向は表明していない。前回2021年の選挙で最大勢力となったものの連立政権を樹立できずに議会から去ったサドル派が次期選挙に参加するかは、現時点では不明。
  • 4月17日、スーダーニ首相はカタールを訪問し、タミーム首長の仲介でシリアのシャラア大統領との初会談を実施した。イラク政府は、5月17日にバグダッドで開催されるアラブ連盟首脳会議にシャラア氏を招待しており、事前対話が必要だったとみられる。上述の理由からシャラア氏のイラク訪問には反対の声も上がっている。
  • トランプ政権100日のイラク経済への3つの影響。①油価下落(石油収入に依存するイラクには打撃)、②対外援助削減(イラクの人道支援の半分が米国からの支援との試算あり)、③イランに対する「最大限の圧力」政策(ガス・電力をイランに依存してきたイラクは代替エネルギーの確保が急務に)。
  • 3月の原油輸出詳細:輸出額 77億ドル、輸出量 日量1万バレル、平均単価 72.34ドル/バレル。



8.リビア情勢

  • 4月6日、リビア中央銀行(CBL)は通貨ディナール(LD)を3%切り下げて1ドル=5.5677LDとし、外貨準備への圧力を軽減するために外国為替規制をさらに強化した。CBL総裁は、2024年は原油輸出収入が低かったことに加え、国内の東西2つの政府が公的支出を拡大したことで外貨需要が増加したと指摘し、両政府の過剰な政府支出に対して警告を発した。
  • 4月16日、IMFは4条協議の最終声明を発表した。声明によると、リビア国内の東西対立の影響で2024年は原油生産量が減少したが、その後の生産量は日量140万バレル(bpd)に近づいている。原油輸出の減少で2024年は経常・財政赤字を記録すると見込まれるが、2025年は力強い成長の回復が期待される(成長率:+3%予想)。ただ、予想される油価の下落や国内の情勢不安などからリスクは下振れ傾向にある。
  • 3月に発表されたリビアの22の探査鉱区の公開入札は11月15日に実施され、落札企業との契約は11月22~30日の間に締結される予定である。リビア国営石油会社は、2027年までに原油生産量を200万bpdに増やすことを目標としており、そのためには国際石油会社の参入が不可欠である。
  • 中国は、近日中に首都トリポリに大使館を再開する予定。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

 

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