マニラ/フィリピン ~Noy Noy最終章~

2015年04月07日

フィリピン住友商事会社
白石 浩

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 フィリピンでは現アキノ大統領(愛称Noy Noy)の任期がいよいよ後1年と迫り、次期大統領候補に関する勝手な予想や支持率の話などが盛んになってきつつあります。ちなみにフィリピンでは大統領は6年1期のみであり再選は許されておらず、2015年10月に次期大統領選挙への立候補が締め切られてからが本番となるでしょう。

 

 アキノ大統領にとっては、競馬でいうと、第3から第4コーナー近くに差しかかってきており、ここから『仕上げの時期』として「馬」に鞭を入れ、これまであまり進展が見られない懸案事項に着手し、『Noy Noy最終章』にふさわしい有終の美を飾ってほしいところですが、そこにはフィリピン独特の様々な事情が複雑に絡み合っていて事態の進展を妨げています。『Noy Noy最終章』として、主要な政策とそれを取り巻く環境及び直面している問題点を以下簡単にまとめてみました。

 

 

• 製造業の発展及び雇用創出

 フィリピン経済は2014年もGDP平均6%を超える高い成長を示し、2015年以降も見通しは明るいものですが、限られた富裕層及び海外就労者からの巨額な送金によって支えられている構造は変わっていません。1日わずか1.2ドル程度で暮らしている貧困層が国民の20%を占めており、若い年齢層での失業率及び非正規雇用労働者の割合が高いのが実態です。

 

 このため、基幹産業としての製造業、中でも『自動車産業』では産業育成と雇用創出への最優先政策として、自動車産業の『地産地消』を推進する支援策『自動車産業ロードマップ』の実施がいつ発表されるか、政府のリーダーシップに期待が集まっている状況です。2015年はアセアン経済共同体のスタートの年であり、自動車産業発展のために有効な支援策を打ち出せるかどうかがフィリピン政府の力を測る重要な試金石となりますが、次の和平問題も微妙に影響し、支援策公表を巡る政府の態度は不透明なものになっています。

 

 

• ミンダナオ和平

 ミンダナオ和平はアキノ大統領が掲げていた公約の1つであり、フィリピン政府とMILF(イスラム武装戦線モロ・イスラム解放戦線)は2014年3月にようやく包括和平合意を締結し、その後上下両院において和平基本法案の審議を継続していました。

 

 ところが残念なことに、2015年1月に特殊警察隊との偶発的な衝突で、特殊警察隊の隊員が多数亡くなるという事件が発生し、国民感情や野党からの批判も重なって和平合意に向けた国会審議が完全に中断したままになっています。この問題を早く整理し、他の審議案件や政策の発表などが劣後されないように期待したいものです。

 

 

• 鉄道インフラ整備と交通渋滞

マニラ鉄道システムMRT3号線と自動車の交通渋滞 (筆者撮影)
マニラ鉄道システムMRT3号線と自動車の交通渋滞 (筆者撮影)

  自動車の販売台数の増加は著しく、マニラ首都圏における交通渋滞はますます悪化してきています。高速道路網の整備に加えて、鉄道システムの普及による渋滞緩和は最重要課題であり、残された任期の中で、政府としての抜本的な解決に向けた迅速な対応を期待したいところです。

 

 特に当社が納めたMRT3号線と呼ばれる鉄道システムについては、マニラ首都圏の通勤の足としての機能を回復させるべく一日も早くリハビリ工事を施し、交通渋滞の緩和への道筋をつけて、ぜひ次期大統領へバトンを渡してもらいたいと願っています。

 

 

 最後にNoy Noy率いる現在のフィリピンの魅力は、明るい国民性と成長への自信と活気であり、日本から最も近いアセアンの親日国であることです。今の日本にはないこの雰囲気を、ぜひ一人でも多くの日本の方に来て、肌で感じ、理解していただくことが私の使命だと思っています。

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