北京/中国 ~発展が続く新首都経済圏 (Greater Beijing)~

アジア・オセアニア

2015年04月20日

住友商事(中国)有限公司
岡本 公康、黄 建輝

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 中国では国の中長期戦略の一つとして「京津冀(けいしんき)一体化協同発展計画」が掲げられています。北京(京)、隣接する天津(津)、河北省(冀)の3地域間の産業・経済・都市化の融合と協調した発展を目指すもので、環境改善や地域間のインバランス解消も重要な位置付けにあります。

 

 

-北京の位置付け-

• 天朝所在の帝都

 北京は、中央政府や関係官庁が所在する首都であり、共産党による政治の中心地です。インターネットでは「天朝」「帝都」などと表現されることもあります。(「帝都」に対するのは「魔都」、"マネーの都"のもじりで、上海のことをいい、政治の中心地である北京と経済の中心地である上海を区別しています)

 

• 悠々たる歴史王国の文化センター

 1271年から、元・明・清の三朝を経て現在、真の都として七百年以上の歴史を持つこの北京は、漢・モンゴル・女真(じょしん)等のカルチャーが融合し、「万里の長城」、「京劇」「全聚徳(ぜんしゅとく、北京ダックの老舗)」「北京同仁堂(漢方薬老舗)」など、数え切れないほどの名物を生み出しています。

 歌・劇・映画では、北京で最も古いバーが集まる「三里屯(さんりとん)」や真夜中まで賑やかなバーが立ち並ぶ「後海」など流行の発信地でもあり、「中央音楽学院」「北京映画学院」「中央戱劇学院」など芸能分野の名門校を目指す若者も数多くいます。

 

• メーカーパラダイスたるイノベーションセンター

 北京大学・清華大学をはじめとするトップランクの大学群があり、中国科学院・中国社会科学院など各種研究機関が集積しています。そこで育ったエリートたちが、「小米科技(シャオミ)」「レノボ」など大手企業で活躍するに留まらず、中国のシリコンバレーといわれる「中関村(ちゅうかんそん)」においてスマートIT/ICT技術の応用による創意工夫をビジネスに開花させています。

 

• 国際交流センター

 2008年の北京五輪、2014年11月の北京APECサミットに続き、2022年の冬季五輪開催地に、北京・河北省張家口(ちょうかこう)市連合が立候補中で、史上初の夏・冬季五輪開催地になることを目指しています。

 

 

-急速な都市化進展に伴う課題-

北京市内のバス停 (筆者撮影)
北京市内のバス停 (筆者撮影)

• 人口集中

 国有大手会社・金融機関の本社やIT/ICT企業の集中に加え、「"拼爹"(親頼みのコネによる就職)より、"北漂"(戸籍を持たずとも才能勝負)」で出世を目指す若者、一攫千金狙いの地方出身ビジネスマン、出稼ぎ労働者などが殺到し、この10年間で北京の居住者人口は650万人増加し2,152万人になりました。

 

• 住宅・交通問題

 人口増による住宅ニーズの高まりで、商業・教育・医療保健施設などが備わる市中心部の住宅価格が高騰しました。収入が限られる若者の多くが生活コストの安い郊外へ住居を移したため、学校・病院・商業施設・交通などの整備が追い付かないといった問題が生じています。例えば北京市内から約30キロ離れた河北省燕郊では毎日市内まで約30万人が通勤しています。地下鉄が無いため、バスが通勤手段の中心で、少しでも多く子女に睡眠を取らせるため、朝5時から定年になった親が代わりにバス停に並ぶという苦労話もあるほどです。

 

北京市自動車保有台数推移

 また、北京市では代替手段としての自動車の保有台数が過去10年間で2.6倍の537万台(全国一)に達し(2014年末政府統計)、渋滞がもう一つの課題となっています。

 

• PM2.5問題

 2012年に米国大使館がPM2.5測定値を公表したのを契機に、北京の大気汚染が注目されるようになり、APEC期間中の束の間の青空を指す「APECブルー」という言葉も生まれました。中国中央テレビ元キャスターが自費制作した記録映画『穹頂之下(Under the Dome)』が2015年2月末にリリースされ、大気汚染の発生源や対策をめぐる問題提起が激しい議論を呼んでいます。その映画では、北京周辺の鉄鋼・セメント工場、火力発電所、自家用車が大気汚染の原因とされています。

 

 

-新首都経済圏の構築による新たな商機-

• 交通インフラ先行

 北京・天津・河北省3地域間の交通一体化整備計画では、2020年までに高速道路・高速鉄道・都市間鉄道交通網で3地域を結び1時間以内の通勤圏構築を目指しています。また、新規に投入されるバスの35%を新エネルギー車とし、北京・河北省燕郊・天津をつなぐ鉄道路線が申請されるなど、環境に配慮した整備計画が進行中です。

 

• 産業移転

 北京では2014年に新規進出産業のネガティブリストを策定し、産業戦略に一致しない製造・卸売・小売施設、ホテル、オフィスビル、大型公立病院、展示館などの市中心部での新設・拡張を禁止し、市外に人口の拡散を図っています。既存の企業も移転・閉鎖を余儀なくされており、代表的なところでは首都鋼鉄の河北省への移転、市内火力発電所の閉鎖があげられます。市中心部にある「動物園服装品卸売市場」や「大紅門服装品卸売市場」などの卸売施設も北京から50~150キロ離れた河北省廊坊(ろうぼう)市や保定(ほてい)市に移転する計画です。

 

 河北省では鋼鉄・セメント工場などの環境基準適用の厳格化や一部工場の閉鎖を進める一方、北京から移転する産業を取り込むことにより、雇用を確保するとともにサービス産業の比率を向上させるなど、産業構造の転換を促進しています。

 

 天津では港湾を保有している優位性を活かした通関一体化で、北京・天津間の物流効率のアップ、北京の金融機能の一部を受け入れるなど、補完関係を強化しています。

 

 京津冀一体化の課題は一朝一夕には解決できませんが、段階的・恒久的に環境改善を推し進め、3地域のバランスのよい発展に向けた施策が講じられています。

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