インド経済:内需拡大も、外需は鈍化(マンスリーレポート9月)

2022年09月21日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子


経済概況・先行き・注目点:回復の勢いが強まっている。2021/22年度の第1四半期(2022年4~6月)の実質GDP成長率は前年同期比+13.5%(36兆8,512億ルピー、約4,630億ドル)と、2021/22年度第4四半期(2022年1~3月)の同+4.09%から伸びが大幅に拡大した。約6割を占める民間最終消費が+25.9%と大きく伸び、全体を押し上げた。コロナ禍の低迷からの回復が進む中で、これまで抑制されてきた購買欲が噴き出た格好。先行きについては、コモディティ価格の高止まり、通貨安、利上げなどが逆風となり消費・投資が減速する懸念はあるものの、特に堅調な内需が支え回復は続くとみられる。インド準備銀行(RBI、中央銀行)による2022/23年度の実質GDP成長率の見通しは前年度比+7.2%。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ同+7.4%、同+7.5%、同+7.2%。注目点は、9月に米国ロサンゼルスで開催された「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」閣僚会議でインドは貿易分野の交渉からの離脱を宣言したが、今後IPEFを経済的にどう活用していくかだ。

 

経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成    

 

生産:回復ペースが減速している。7月の鉱工業生産は前年同月比+2.4%と6月の同+12.7%から伸びが大幅に減速した。前年同月が高水準であったためその反動も影響した。財別では、資本財が同+5.8%と最も高く、耐久消費財が同+2.4%、非耐久消費財は▲2.0%とマイナスだった。今後については、外需の鈍化、金融引き締めなどが生産活動の足かせになることが懸念されるが、国内では景気回復が続いているため、生産活動は緩やかな回復が続くとみられる。

 

貿易:輸入が急増、貿易収支が悪化している。輸出は8月が前年同月比+1.6%の339億ドルと、7月の同+2.14%の363億ドルを下回った。同国は世界最大のコメ輸出国だが、干ばつの影響でコメの供給不足に陥ることを見込み、国内を優先するためコメの輸出規制に踏み切っている。先行きについては、コメの輸出規制に加え、外需の鈍化と内需の回復に伴い輸出の伸びは緩慢になると予想する。輸入は、8月が同+37.3%の619億ドルと、7月の同+43.6%の663億ドルから減少した。特に輸入全体の約3割を占める石油・原油・関連製品の伸びが同+87.4%の177億ドルと目立った。8月の貿易収支は▲280億ドルと7月の▲300億ドルから赤字幅が縮小した。今後、上述の通り輸出の伸びが緩慢となり、輸入は内需拡大により増加が続くとみられ、貿易赤字の拡大が懸念される。

 

    主要経済指標(出所)インド中央統計局、インド商業統計局よりSCGR作成    

 

 

物価:高水準にとどまっている。8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.0%と7月の同+6.7%から加速した。インフレ目標である+2~6%を2022年1月以降8か月連続で上回っている。特に「食料品・飲料」が同+7.6%(7月同+6.7%)と高かった。8月の卸売物価指数(PPI)は同+12.4%と7月の同+13.9%からやや鈍化したものの+10%台で高止まりしている。特に「燃料・電力」が同+33.7%と最も高かった。今後、CPIは高水準が継続し、年内のインフレ目標を上回るだろう。

 

金融政策:RBIは、インフレの加速に対応し、5月4日の臨時会合で政策金利を0.4%pt引き上げ4.4%とし、その後6月8日の会合では0.5%pt引き上げ4.9%、8月5日の会合ではさらに0.5%pt引き上げ5.4%とした。3会合連続の引き上げ。今後もインフレや米国の利上げに伴い、追加利上げが実施されるとみられる。

 

財政政策:財政赤字が続いている。税収については、7月から石油製品の輸出で利益を得ている企業に対し超過利潤税を課していることに加え、一部品目の物品・サービス税(GST、日本の消費税に相当)の引き上げなどにより増加している。一方、支出では肥料などへの補助金、ガソリンやディーゼルに対する減税などインフレ対策の費用が増大していることに加え、公共投資(予算案では前年度比+24.5%)などの景気対策も実施されている。7月単月の財政収支(連邦政府)は28か月ぶりに黒字に転じた。2022/23年度の財政収支(連邦政府)のGDP比を▲6.4%に縮小することを目指している。2021/22年度は▲6.7%だった。

 

    物価(出所)インド中央統計局よりSCGR作成    

為替:軟調な動きが続いている。7月、1ドル80ルピー近辺と史上最安値を更新。その後も米国の大幅な利上げ観測による米国債利回り上昇などで軟調な動きが続いている。年内は米国による利上げや経常赤字の拡大などを背景に嫌気されドル買いルピー売りの動きが続き軟調な動きが続くとみられる。

 

株価:上昇している。6月中旬以降、経済指標の改善が支援材料となり上昇。8月にオンラインショッピングなどのデジタル決済額が増加したことなどが好感し、小売りセクターの株が物色買いされた。8月の米国の消費者物価指数(CPI)が予想を上回ったことを受け米国での利上げペース加速観測が広がり、売りが優勢になる場面もあった。世界的なリスクオフで2021年末から2022年6月中旬までで約9%下落していた。今後は、新興国の中でも経済成長率が高水準を維持すると見込まれるため、上昇基調が続くとみられる。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成    

 

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