インド経済:経済回復は続くも、ルピーは史上最安値更新(マンスリーレポート10月)

2022年10月20日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:足元、回復が続いている。2022/23年度の第1四半期(2022年4~6月)の実質GDP成長率は前年同期比+13.5%(36兆8,512億ルピー、約4,630億ドル)と、2021/22年度第4四半期(2022年1~3月)の同+4.1%から伸びが大幅に拡大した。約6割を占める民間最終消費が+25.9%と大きく伸び、全体を押し上げた。コロナ禍の低迷から回復が進む中で、これまで抑制されてきた購買欲が噴き出た格好。先行きについては、コモディティ価格の高止まり、通貨安、利上げなどが逆風となり消費・投資が減速する懸念はあるものの、特に堅調な内需が支え回復は続くとみられる。インド準備銀行(RBI、中央銀行)による2022/23年度の実質GDP成長率の見通しは前年度比+7.0%。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ同+6.6%、同+6.5%、同+7.0%。注目点は、財政赤字の改善のため、天然ガス価格の高騰により国内産天然ガス取引で利益を得ている企業に超過利潤税の導入が検討されていることだ。    

 

経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成    

 

生産:前年同月比でマイナスに転じている。8月の鉱工業生産は前年同月比▲0.8%と7月の同+2.2%から伸びがマイナスに転じた。2021年2月以降初のマイナス。前年同月が高水準であったためその反動も影響した。特に「電気機器」、「医薬品・医薬化学品・植物」、「衣料品」などの伸びが2桁台のマイナスとなった。外需の減速、金利の上昇などが生産の重石になりつつある。今後については、ヒンズー教の新年を祝う祭りである「ディワリ」の期間を迎え消費が高まるとみられ、生産活動は持ち直す可能性がある。

 

貿易:輸出は、回復の動きがみられる。輸出は9月に前年同月比+4.8%の355億ドルと、8月の同+1.6%の339億ドルから増加した。全体の24%を占める鉄鋼や非鉄などの製品を含むエンジニアリング製品が同▲10.9%の84億ドルとマイナス成長であった一方、全体の21%を占める石油製品は同+43%の74億ドルと大幅に増加した。先行きについては、外需の鈍化と内需の回復に伴い輸出の伸びは緩慢さを維持すると予想する。輸入は、9月が同+8.7%の611億ドルと、8月が同+37.3%の619億ドルから伸びが縮小し、金額も減少した。特に輸入全体の約3割弱を占める石油・原油・関連製品の伸びが同▲5.4%の159億ドルと、8月の同+87.4%という大幅なプラスからマイナスに転じた。9月の貿易収支は▲257億ドルと、8月の▲280億ドルから赤字幅が縮小した。今後、上述の通り輸出の伸びが緩慢となり、輸入は内需拡大と通貨安の影響を受け増加するとみられ、貿易赤字の拡大が懸念される。

 

    主要経済指標(出所)インド中央統計局、インド商業統計局よりSCGR作成    

 

物価:消費者物価指数(CPI)は、加速している。9月のCPIは前年同月比+7.4%と、8月の同+7.0%から加速した。インフレ目標である+2~6%を2022年1月以降9か月連続で上回っている。特にCPIの5割弱を占める「食料品・飲料」が同+8.4%(8月同+7.6%)と高かった。一方、9月の卸売物価指数(PPI)は同+10.7%と8月の同+12.4%から鈍化した。PPIの6割強を占める「工業品」は同+6.3%(8月同+7.5%)だった。また、全体の1割強を占める「燃料・電力」が同+32.61%(8月+33.7%)と、6月(同+50.9%)以降下落しているものの、高水準が続いている。今後、インフレ圧力は和らぐとみられるものの、CPIはインフレ目標をしばらく上回るだろう。

 

金融政策:利上げしている。RBIは、インフレの加速に対応し、5月4日の臨時会合で政策金利を0.4%、6月8日、8月5日、9月30日の会合でそれぞれ0.5%ずつ引き上げ5.9%とした。4会合連続、計1.9%の引き上げ。年内最後の12月の会合でも、利上げが実施されるとみられる。

 

財政政策:財政赤字が続いている。税収については、7月に導入された石油製品などの輸出や国内産原油取引で利益を得ている企業に対する超過利潤税、一部品目の物品・サービス税(GST、日本の消費税に相当)の引き上げなどにより増加している。一方、支出では肥料などに対する補助金、ガソリンやディーゼルに対する減税などインフレ対策費用が増大していることに加え、公共投資(予算案では前年度比+24.5%)などの景気対策も実施されている。政府は、2022/23年度の財政収支(連邦政府)のGDP比を▲6.4%に縮小することを目指している。この達成に向け上記の国内産原油取引に加え国内産天然ガス取引で利益を得ている企業に対して超過利潤税の導入も検討されている。2021/22年度は▲6.7%だった。

 

    物価(出所)インド中央統計局よりSCGR作成    

 

為替:下落している。10月中旬、1ドル82ルピーを超え史上最安値を更新。貿易赤字の長期化や米国の大幅な利上げ観測などで軟調な動きが続いている。年内は、世界経済の減速懸念も強まり、世界的な新興国通貨売りの動きに連なり、さらに史上最安値を更新するとみられる。

 

株価:上昇している。9月中旬から下旬にかけ米国株の下落に連なりインド株も下落していたが、それ以降行き過ぎた米国株が反発したことなどから、インド市場でも買いが優勢となった。今後は、新興国の中でも経済成長率が高水準を維持すると見込まれ、上昇基調が続くとみられる。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成    

 

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