インドネシア経済:海外直接投資が急増、景気回復の追い風に(マンスリーレポート11月号)

2022年11月14日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:足元の経済は堅調な回復が続いている。第3四半期の実質GDP成長率は、前年同期比+5.72%と、伸びは第2四半期の同+5.45%を上回り、4四半期連続で+5.0%を超えた。COVID-19拡大抑制策が強化されていた前年同期(同+3.51%)のベース効果のほか、入国制限を含む規制緩和などにより内需が増勢したこと、資源輸出が好調だったことなどが成長を後押しした。先行きについては、資源価格の下落、金融引き締め、インフレ加速などにより成長は鈍化する見込み。2023年の実質GDP成長率の政府予測は、前年比+5.3%。IMF、世界銀行、ADBはそれぞれ同+5.0%、同+5.1%、同+5.0%と予測。注目点は、COVID-19抑制策の緩和を受け、海外直接投資(FDI)の実現額が急増していることだ。第3四半期のFDI実現額は、63.6%増の169兆ルピア(108億ドル)と、四半期ベースの伸び率、金額ともに過去最高を更新した。今後もFDI増加は景気回復への追い風になるだろう。

 

経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:回復が続いている。9月の小売売上高は前年同月比+4.6%と8月の同+5.4%から伸びは縮小したが、12か月連続のプラス成長となった。「自動車燃料」(同+8.0%)、「食品・飲料・たばこ」(同+8.1%)、「文化・娯楽用品」(同+7.1%)などが伸びた。10月の小売売上高は、同+4.5%(中央銀行予測値)と堅調に推移する見込み。「食品・飲料・たばこ」が引き続き堅調なほか、「情報・通信機器」が改善する見通し。また、クリスマスシーズンなどを控え、消費が高まるとみられる。

 

生産:回復が続いている。10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は51.8となり、9月(53.7)から低下したものの、14か月連続で景気の好不調の節目となる50を上回っている。新規受注、生産高の指数は低下したが、引き続き堅調さを維持している。また、原材料価格と製品価格の指数は低水準となり、価格上昇圧力が緩和した。先行きについては、好調な消費・投資・輸出が支えとなり回復が続くとみられる。

 

貿易:堅調に推移している。9月の輸出額は、前年同月比+20.3%の248億ドルと、2021年3月以降19か月連続で2桁の伸びが続いている。8月は同+30.0%だったが、9月は資源価格の低下で伸びが縮小した。9月の輸入額は、同+22.0%の199億ドル(8月は同+32.8%)だった。全体の輸入額の75%を占める材料・補助資材が前年同期から2割以上増加した。貿易収支は50億ドルの黒字(黒字は29か月連続)。今後も、輸出入が堅調に拡大するとみられるが、特に内需拡大により輸入増となり、貿易収支は縮小傾向になるだろう。

 

    主要経済指標(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

物価:高水準になっている。10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+5.71%と、9月の同+5.95%をやや下回ったものの、5か月連続で中央銀行のインフレ目標である+2~+4%の上限を超えた。9月初旬から実施されている補助金の対象である燃料の値上げの影響がまだ続いており、「運輸・通信・金融サービス」が同+16.03%と、9月の同+16.01%からほぼ横ばいとなった。今後も、引き続き燃料価格の値上げの影響、内需の回復により、CPIがしばらく高止まりになるだろう。

 

金融政策:利上げしている。中央銀行は10月、金融政策決定会合で政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.50pt引き上げ、4.75%とした。インフレ抑制と通貨ルピアの下支えが狙い。利上げは、2022年8月に2018年11月以来3年9か月ぶりに開始され、計1.25%利上げしている。年内は、底堅い国内経済により利上げを進めやすい環境であり、米国での利上げによる米ドル高ルピア安圧力が続くとみられ、追加利上げが実施される見込み。

 

財政政策: 財政収支は改善しつつある。2022年度の予算での財政収支のGDP比の見通しは▲4.85%だが、7月に財務省は同▲3.92%に抑制することも可能との見通しを示している。景気回復で法人所得税収が増加しているほか、タックスアムネスティ(租税特赦)や増税により税収が増加している。財政収支の上限を同▲3%とする財政規律を3年間の期限付きで緩和している。2022年9月末に国会本会議で成立した2023年度の予算では、同見通しは▲2.84%に設定され、公約内に収めている。

 

    物価(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

為替(対ドル):下落している。米国がインフレ対策のため利上げ幅を拡大したためドル買いルピア売りが進行しており、11月初旬には2年6か月ぶりのドル高となった。今後は、好調な国内経済や追加利上げなどがドル買いルピア売りを抑制する材料となり、米国の利上げ幅縮小が期待され、ドル高ルピア安基調は続くも緩やかになるとみられる。

 

株価:軟調な動きになっている。ジャカルタ総合指数は、7月中旬から9月中旬にかけ、好調な資源などの輸出と国内の堅調な経済回復などが支援材料となり、上昇基調が続き過去最高値を更新していたが、その後米国の積極的な利上げ路線の継続により軟調に推移している。ただし、年初から11月初旬では5%ほど上昇している。今後、世界的な景気後退が懸念材料となり軟調な動きがしばらく続く可能性がある。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

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