「トルコ・イスタンブール市長の逮捕とその影響」 中東フラッシュレポート(2025年3月後半号)

2025年04月30日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

 

 

2025年4月17日執筆


1.トルコ:イスタンブール市長の逮捕とその影響

 3月23日、トルコ最大野党「共和人民党(CHP)」に所属するイマーモール・イスタンブール市長が汚職容疑で逮捕された。同氏は、次の大統領選挙で有力候補になるとみられていた人物。これに先立つ3月19日に、同氏は汚職とテロほう助の容疑で拘束されており、同じCHP系の政治家やジャーナリストなど106人も当局に拘束された。イマーモール氏はすべての容疑を否定している。同氏の逮捕に反発する野党支持者などが市庁舎前などでデモを実施。各地で発生したデモには数万人が参加し、約2,000人が当局に拘束された。

 

 市長の逮捕は、通貨リラやトルコの株式市場にも影響。リラは大きく売られ過去最安値を記録。その後当局の介入もあり、1ドル38リラ台に戻している。株式市場も急落し、一時9%安となった。米ユーラシア・グループは、本件を受けてトルコの将来見通しを引き下げた。短期見通しは、政治的混乱、投資家の信頼低下、新たな経済的課題を受けて、ポジティブ見通しを中立に引き下げ、長期見通しは、次回の国政選挙を前に民主主義と経済政策が後退するリスクを考慮して、中立からネガティブに引き下げた。


2.イスラエル/パレスチナ:停戦合意の延長ならず、ガザ攻撃を再開

 3月18日、イスラエルは1月19日に発効した停戦を破り、ガザへの空爆を再開した。事前の警告なく夜中に突然始まったガザ全土への空爆によって、最初の数時間だけでガザのパレスチナ人400人以上が死亡し(子供174人を含む)、500人以上が負傷した。ネタニヤフ首相は、この攻撃は「ただの始まりに過ぎず、人質が解放されるまで軍事作戦を続ける」と発言。国際社会はイスラエルの空爆を強く非難し、グテーレス国連事務総長は、自身のSNS(X)に、「憤慨している(Outraged)」と投稿。米国は、イスラエルの行動を全面的に支持すると表明した。


3.米国/イエメン:トランプ政権幹部による軍事機密の情報漏洩事件

 3月24日付のThe Atlantic誌の記事で、トランプ政権高官が、3月15日の米軍のイエメン空爆に関して協議するオンラインチャットグループに誤って同誌のゴールドバーグ編集長が追加されたため、米軍の軍事作戦に関する詳細を同氏が事前に知るに至った経緯が紹介された。チャットグループに同氏を招待したのはウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官で、同グループにはヴァンス副大統領やヘグセス国防長官など18人の政権高官が入っていた。イエメン空爆を実行する少し前に、ヘグセス国防長官が標的に関する情報や使用する兵器、攻撃手順などの作戦詳細をチャットグループに送っていた。政権高官が商用アプリで軍の機密情報をやり取りしたこと、メッセージが一定期間後に自動的に消える設定になっていたことなどが問題視されており、さらに政権内部での意見の相違や欧州の“タダ乗り”を批判するようなメッセージも暴露された。米国家安全保障会議は漏洩を認め、この件に関して調査を行うと発表している。


4.米国/イラン:トランプ大統領がハメネイ師に書簡を送付

 3月7日の米FOXニュースのインタビューで、トランプ米大統領はイランのハメネイ最高指導者に米国との直接交渉を促す書簡を送ったことを明らかにした。その後、3月12日にUAEの特使がテヘランへ赴き、イランのアラグチ外相にトランプ氏からの親書を手渡した。親書の内容は非公表だが、リークされた情報によると、イランの核計画の完全解体や核濃縮の完全停止、フーシ派やヒズボラへの支援停止などに2か月以内に応じることを要求する、という内容だったとのこと。

 

 3月27日、アラグチ外相は、トランプ氏の書簡に対する回答を、オマーンを通して米国へ送付したと語った。アラグチ氏によると、イランが米国からの最大限の圧力と軍事的脅威にさらされている間は直接交渉には応じない方針で、これまで通り間接交渉には応じる、と返答したとのこと。3月30日にトランプ大統領は、イランが取引に応じなければ爆撃すると発言。翌3月31日にはハメネイ師が、米国がイランを攻撃すれば(米国は)報復を受けると語った。


5.シリア:新暫定政権の発足

 3月29日、シャラア暫定大統領は23人の大臣を任命し新たな暫定政府を発足させた。要職の外相と国防相は、シャイバニ外相とアブ・カスラ国防相が前暫定政権から留任し、内相と法相にもシャーム解放機構(HTS)のメンバーを任命した。首相は置かず、シャラア氏が行政部門を率いる(バシール前暫定政権首相はエネルギー相に就任)。23人中、30代が5人、40代が11人と平均年齢は若く、女性も1人登用された。

 

 シャラア氏がもともとイスラム過激派だったことは周知の事実であり、特に欧米諸国は同氏に対し、シリア国内の多様な民族・宗教コミュニティーを包摂する政府の樹立を呼び掛けてきた。新政権の閣僚にはキリスト教徒やイスラム教ドルーズ派、アサド前大統領と同じアラウィー派の人物もそれぞれ1人ずつ起用されており、これは欧米に対するアピールの意味合いもあると考えられる。




6.イラク情勢

  • 3月25日に独立高等選挙管理委員会(IHEC)が有権者名簿の更新手続きに入るなど、10月に予定されている議会選挙に向けて準備が始まっている(有権者約3,000万人)。選挙法や、2024年に37年ぶりに実施された国勢調査の結果を反映した議席数拡大の可能性などについて議論が続いている。
  • 3月26日、キルクークの主要油田4か所の開発と生産に関するイラク石油省とBP社との間での契約調印式が、スーダーニ首相やアブドゥルガニ石油相、BPのオーキンクロスCEOなどの同席のもとで行われた。契約には、原油生産量の日量42万バレル(bpd)への増産、随伴ガスを活用した4億標準立方フィート(scfd)のガス生産、400MWの発電所建設などが含まれる。
  • クルディスタン石油産業協会(APIKUR)は、イラク政府が契約の履行と過去および将来の輸出に対する支払いを保証するまで、同協会加盟企業はイラク・トルコパイプライン(ITP)経由の原油輸出を再開しないと発表した。APIKURは、イラク政府石油省は問題を解決する意思がないと批判しており、また米政府も、ITP経由の原油輸出を早く再開するため国際石油企業との合意を締結するようイラク政府に圧力を掛けている。
  • 2月のイラクの原油輸出量は8万bpdで、1月の333.4万bpdから微増。
  • 米国がイランからの電力購入を許可するウェイバーを更新しなかったため、800MWのイランからの電力輸入に影響が出るとファーデル電力相が発言しており、トルコからの電力輸入を5月中旬から600MWに倍増する計画や、6月までにペルシャ湾岸に浮体式LNGターミナルを設置する計画などによる対応策を進めている。



7.リビア情勢

  • リビア国営石油会社(NOC)のスレイマン会長は、サーレハ代表議会(HoR)議長との面談の中で、リビアの原油生産量が141万bpdに達したことを発表した。
  • リビア中央銀行(CBL)は、4月末の50ディナール札の回収・廃止(計130億ディナール相当)に向けて、国内の現金不足に対応するため、計150億ディナール相当の5、10、20ディナール札の新札(イーサ新CBL総裁の署名入り)を発行した。
  • 3月26日、アル・バウル外相代理は在リビア・トルコ大使と会談を行い、二国間協力の強化や、2026年初頭に「トルコ・アフリカ首脳会議」をリビアで開催するための準備について話し合った。
  • 3月27日、国民統一政府(GNU)のドゥベイバ首相は、UAEを訪問しムハンマド大統領と会談を実施した。 特に経済、エネルギー、投資の分野における両国間の相互協力について議論した。
  • 国連食糧農業機関(FAO)はリビア、チュニジア、アルジェリアにバッタの大群が到達していると警告。各地で住民が撮影した動画には、バッタの大群が襲来する様子が映っており、バッタの大群は広範囲にわたる農業被害を引き起こすため、住民たちは必要な殺虫剤を早急に供給するよう当局に要求している。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)


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