原油(2025年6月):「掘りまくれ」ない米国エネルギー企業
概要
- 米国シェール産地のエネルギー企業の景況感は悪化。不確実性が高まり、企業活動指数はマイナス圏へ
- WTI60ドル以下では原油生産縮小。鉄鋼関税や随伴水問題も新たな頭痛の種に
波乱含みの第2四半期、米国原油生産の頭打ち
米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)の月次統計によると、2025年4月に米国の原油生産量は日量1,346万8,000バレルと、過去最高を記録した。しかし産油量の増加ペースは鈍化しており、EIAは月次の「短期エネルギー見通し(STEO)」で、米国産油量の見通しを徐々に引き下げている。2025年6月号では産油量は2025年4月をピークに減少し、2025年平均で日量1,342万バレル、2026年は同1,337万バレルとわずかに前年割れとなる予測が示された。
2025年4月初旬、トランプ米大統領が打ち出した相互関税の衝撃に加え、自主的追加減産中のOPEC+加盟8か国が減産緩和の加速を決めたことで、原油価格は急落した。Baker Hughesの週次統計によると、米国の石油掘削リグ稼働数は7月3日週時点で425基と、2月末の直近ピークから▲63基も減少している。近年、石油会社が設備投資を削減し、リグ数が減少しても、生産性向上などにより産油量は保たれてきたが、予想以上のリグ数急減は生産予測の下方修正につながっている。対照的に、2024年末に米国で新たなLNG輸出施設が立ち上がり、国内ガス需給が改善したことで、米国ガス価格(Henry Hub)は歴史的安値圏を脱し、2025年に入りガス掘削リグ数は増加。EIAも2026年にかけて原油価格は下落、ガスは上昇を予想しており、原油とガスの方向感は異なっている。
ダラス連銀エネルギー調査:企業活動指数がマイナス圏に
ダラス連邦準備銀行(シェール生産の中心地であるテキサス州・ルイジアナ州北部・ニューメキシコ州南部を含む地区を管轄)は四半期ごとに、同地区に所在ないし本拠を置くE&P(探査・生産)および油田サービス会社(探鉱・掘削に必要な専門的作業・技術の請負会社)の活動状況に関する調査をEnergy Surveyとしてまとめ、公表している。
バイデン前政権時代に行われた同調査では、高インフレや化石燃料関連規制に対する企業の不満・批判が見受けられたが、第2期トランプ政権発足後の2025年第1四半期調査(3月12~20日実施)でも、不確実性の高まりや低油価志向などが企業に強いストレスを与えていることがうかがえた。7月2日に公表された第2四半期調査(調査期間6月18~26日)では、そのストレスがより具体的に表れている。
まず、全体の業況を示す企業活動指数は▲8.1と、前期の3.8から縮小圏に転換。内訳をみると、E&P(探査・生産会社)が6.9⇒▲4.4、油田サービス会社が▲2.3⇒▲15.6と、後者の活動低下が目立つ。E&Pの石油・ガス生産指数もマイナスに転じているが、設備投資指数はE&Pが2.2とまだプラスの一方、サービスは▲13.3だった。E&Pの支出抑制や企業合併による顧客数減少・競合激化などから、このところ油田サービス会社の業況指数は相対的に低いが、今回もサービス会社の指標は総じて悪化している。E&Pの生産活動が鈍り、不確実性が高まる中で、請負会社はコスト増加分を転嫁できず、収益性が低下している様子がうかがえる。不確実性指数は47.1(E&P43.9、サービス53.4)といずれも高い。
自由記述では、マクロや関税・地政学の不確実性が事業にとって有害だと嘆くコメントのほか、「関税で鋼管コストが上昇」「リグ数減少で予備設備の在庫が増加」「多くの企業が採算維持に必要な額を大幅に下回る水準で請負業者を押さえている」「サービス企業が淘汰されると、将来増産の必要が生じたときに増産能力を損なう」といった切実なコメントも見受けられる。
2025年末のWTI価格予測は回答平均で68ドル/バレル、2年後72ドル、5年後77ドル。Henry Hub天然ガス価格は2025年末が3.66ドル/MMBtu、2年後4.12ドル、5年後4.5ドル(vs. 回答期間の平均は69.81ドル/3.3ドル)。
トランプ大統領は原油安を望んでいるとされるが、「50ドルの原油価格など持続可能でないことを知るべき」「先物価格の変動が大きすぎて値決めができない」「中東の戦争は、合理的な予測を超えた結果を生み出しかねない」「Drill baby drill(掘りまくれ)など無理」といったコメントと、石油・ガス価格の方向感の違い、LNG輸出のメリットを指摘する声もある。
最後に、今回のトピックスである「油価下落」「関税」「廃水処理」についてみていく。
油価下落の影響
前回2025年第1四半期の調査では、掘削コストに関する設問があった。回答の幅は広いが、全体の平均では「既存油井の操業コストを賄うのに必要なWTI価格は1バレル41ドル(大手31ドル・中小44ドル)」、「新規油井の掘削には65ドル」という結果だった。WTI先物価格は第1四半期の平均で約71ドルだったが、第2四半期は64ドルと、後者の価格を下回る。(注:本報告書ではE&Pについて、生産量日量1万バレル超を「大手」、同1万バレル未満を「中小」と分類。米国では小規模E&Pの方が数は多いが、大手が米国の生産量の8割以上を占める。)
今回、「2025年に掘削予定の井戸数は年初時点から変化したか」という設問があり、「減少した」という回答が全体の半分弱を占めた。6月中旬に中東情勢の緊迫で先物価格が急騰した際、生産企業の先物ヘッジ売りが急増したとの報告があるが、収益確保に悩む企業にとって1バレル70ドルを大きく超える価格は、生産予定の数量の一部について販売価格を確定する好機だったものと思われる。
また、2025年6月~2026年6月にかけて原油価格が1バレル60ドルないし50ドルの場合、サービス企業の販売価格とE&Pの原油生産にどう影響するかという設問に対する回答は以下の通りだった。
鉄鋼関税
最近(6月4日)、米国の鉄鋼輸入関税が25%から50%に引き上げられたことについて、「E&Pの2025年下期の掘削井戸数にどう影響するか」の問いに対しては「影響なし(46%)」「やや減少(27%)」の回答が多い一方、「サービス会社の今後12か月間の顧客需要にどう影響するか」という設問では、「やや減少(51%)」と「まだわからない(28%)」という回答が多かった。E&Pからは、「鉄鋼価格が上がったのに、米国内の鉄鋼生産はあまり増えず、値上がり圧力になるので、早く増産してほしい」「国内に代替品がないので、コストがかさむ」「生産の採算が変わってしまう」といったコメントも寄せられた。
廃水問題
米国のシェール革命から20年近くが経ち、多くの油田が成熟し、スイートスポットが減少している。また、掘削に伴う電力需要の増加やテキサス州の電力網の脆弱性にも以前から課題感があり、今回も自由記述のなかで電力コストの上昇に関するコメントが出ている。
最近は、シェールオイルの生産時に生じる大量の随伴水の処理も課題となっている。今回「今後5年間で、随伴水管理に関連する課題はPermianの掘削・完成活動の制約になるか?」という問いが設けられたのに対して、4分の3の回答者が制約になると答えた(大きな制約になる32%、若干の制約になる42%)。自由記述では「水管理(輸送・処理)はコストがかさむ」「カリフォルニアでもプロジェクトに影響が出ており、全米レベルの問題だ」「多くの企業が問題に取り組んでおり、廃水リサイクルが今後大きな役割を果たす」……といった声が挙がっている。
以上
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