政策と成長と物価
2026年01月06日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行
【2025年】 物価との付き合い方は難しい
わが国でも物価上昇が長期化している。デフレ脱却・基調的なインフレを目指してきたので、政策はほぼ目的を達成したことになる。目標は成就された一方で、コストプッシュ型のインフレは目指してきたものと違うという主張もある。企業の賃上げ遅れとの指摘もあるが賃上げは一般的には年に一度の労使交渉を経て、もしくは賞与などによる調整を通じて実施されるように、こちらも物価動向からは遅れて上昇するものでもある。企業規模によって水準は異なるものの、賃上げは進んできた。パンデミック前から地方では人手不足が深刻だったので、求人段階でも賃上げが進んでいた様子もうかがえる。それでも物価上昇が賃上げ以上に進んでいることもあって、実質賃金のマイナスが続いている。このことは労働者にとっては、継続的に労働価値が低下していることを意味する。そのため、企業は賃金の引き上げを要求されるが、業績次第でもあるので、それに対するコミットメントは実際のところ容易ではない。
家計部門と企業部門が貯蓄超過で政府が貯蓄不足、政府が国債を発行して家計と企業から資金を借り入れているのが今の状況だ。物価が上昇した結果、国の借金が目減りしているとしたら、その逆の立場にある家計と企業の資産は当然目減りしていることになる。実際、GDP比では政府債務は低下しており、それをもって財政がコントロールされていると評価されている。
結局、コストプッシュであろうが、好循環によるものであろうが、インフレになれば政府債務の対GDP比は抑制されるので、政策当局にとっては構わないということではないだろうか。インフレが進行した分だけ、家計の実質的な購買力は低下したし、将来の購買余力となる貯蓄も目減りした。企業にとっても投資余力に加えて賃上げ余力すらも削られていることも危惧される。家計と企業にはいわゆる「インフレ税」が課されている状況とも言える。
日本銀行の資金循環統計よると2025年9月末時点での家計金融資産のうち「現金・預金」は1,122兆円と前年同期から0.5%増加した。同じ時期の消費者物価指数が前年比2.9%上昇しており、差し引いた分だけ価値低下していることになる。家計資産全体では4.9%増加しているのでよいではないかと指摘もあるだろうが、物価上昇率が2%に満たなかった2010年代のほうが同じ程度の家計資産増加率だったことから、家計や企業にとっては、いまの状況よりもよかったことになる。つまるところ、我々は、このインフレで何を得られたのだろうか?
貯蓄から投資へ。確かに株価は上昇したが、インフレによる水準変化も株価の押し上げ要因となっただろうし、自社株買いや日本銀行が大量に株式を保有していることから流動性が低下した影響もあるだろう。「貯蓄から投資」と謳う以上は単純に株価の上昇を目指しているのではなく、新しい企業の登場や、高い株価を利用することで新しい投資を促進するための資本調達を促していると期待したい。株価が上昇することは、バブル崩壊の時期を過ごしてきた立場からは、とても大切なことだ。しかし、金融だけではなく、人、技術、データ、環境、といった利用可能なすべての資本を有効活用することで、安全保障の確保や人口減少といった足もとの課題を打ち破っていくための仕組みの構築が必要なタイミングではないか。
経済政策:安全保障・危機管理×成長実現
高市政権は日本経済が成長維持・加速するために重要視する17分野を挙げている。いまのところは、対象を羅列しているに過ぎないが、6月に公表される骨太方針を固めていく過程で、優先順位が決まっていくとみられる。例えば、「フュージョンエネルギー」は実現されれば一気にエネルギー問題が解消に向かう期待はあるものの、今は実証段階で、商用までには時間を要する。成功は約束されたものではなく、胆力が問われる。
マテリアルでは海洋での開発とともにスクラップの利活用が注目される。世界的にも地上での新規鉱山開発余地は狭まりつつある。新規の開発と金属の再生塊を国内で適正な価格で売買できる仕組みや場の提供も必要だろう。重要鉱物(物資)の追加など再整理も含めて、注目していきたい。
以上
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