原油(2025~26年)分断が進む市場と、資源へのアクセス競争
2026年01月13日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美
2025年12月16日作成、2026年1月9日加筆修正
要旨
- 2025年:統計上は大幅供給過剰でも、原油指標価格は下げ渋り。市場の分断が進む
- 余剰原油の多くは中国が戦略備蓄増強により吸収。安値で買い、高値で見送り、事実上の価格調整役に
- 2026年:米国によるベネズエラへの介入は、主導権を取り戻す動きとも捉えられる
- 原油市況は世界全体のバランスでは捉えきれず。資源へのアクセス争奪戦に
【2025年】 顕在化しない供給過剰。地政学が市場を分断
2025年の原油市場は、需給緩和によりほぼ一貫して弱含みの推移が続いた。ブレント原油の年平均価格は前年比で1バレルあたり約11.7ドル下落した。しかし、12月中旬時点で、国際指標であるブレント原油は62ドル、制裁対象のロシアの主力油種ウラル原油は(報道ベースで)34ドル。在庫ひっ迫が続く欧米市場の高値と、西側が制裁や政治的配慮からアクセスできずにだぶつく制裁原油(ロシア・イラン・ベネズエラ産など)の低価格という二極化が顕著となった。
米国ではトランプ大統領が、就任早々から「エネルギー緊急事態」を宣言し、原油増産と価格押し下げ方針を明確化。国際機関やアナリストは、OPECプラスの増産を根拠に「供給過剰」を警告し続けた。しかし、欧米市場の在庫指標は改善せず、価格の下値は堅かった。むしろ、ディーゼルなど精製品の価格は強含んだ。
2025年、中国は価格下落時に制裁原油を戦略備蓄向けに大量購入し、価格上昇時には買いを見送ることで、事実上の「価格調整役」のような働きをした。OPECプラス・カナダ・南米などの増産は価格上昇を抑制したが、「欧米市場がアクセスできる原油」は比較的タイトなままで、大幅余剰は価格の面で顕在化しなかった。年終盤になって洋上在庫が急増したとはいえ、これは制裁原油の滞留と、貿易フローの変化に伴う輸送の長距離化によるもので、西側市場への供給増には直結していない。
「ベネズエラの変」で始まった2026年
2026年早々、トランプ政権がベネズエラに対して電撃的な介入を断行した。表向きの理由は、違法薬物・不法移民など治安対策だが、米国の裏庭たる中南米から中国・ロシア・イランなどの影響力を排除する狙いがあるとの見方が多い。
原油の観点では、今回の軍事介入は「中国からのベネズエラ原油奪還」を意味する。1月7日には米エネルギー省が、米国によるベネズエラ原油管理に関するファクトシートを公表。米ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、トランプ大統領は原油価格を1バレル=50ドル程度に誘導することを望み、ベネズエラの石油産業を実質支配することでそれに近づける意図があるという。ベネズエラ産の重質原油を中国から米国市場へ引き戻せば、米国製油所の原料コストは下がる。米国はベネズエラ国内に滞留していた原油の売却に着手し、制裁対象タンカーの拿捕も続けている。アクセスを失う中国は代替調達を迫られつつある。
一方、ベネズエラの石油産業は長年の投資不足とインフラ劣化により深刻な衰退状態にある。同国の石油埋蔵量は世界最大とされるが、それは経済合理性を持って採掘できる実際の可採量を意味しない。中国は過去にベネズエラに原油担保の巨額融資(Loan-for-oil)を供与し、国有企業を通じて上流開発にも投資してきたが、政治腐敗や法律・税制度の不安定性、ハイパーインフレ、制裁、人的資本流出などが重なり、再建計画は頓挫。融資の一部は回収困難になったとみられる。短中期での大幅増産は困難で、数年単位で西側企業が日量数十万バレル規模を積み増せる程度にとどまる見通しだ。加えて、エクソンモービルなど米欧メジャーは、不十分な補償による資産国有化などの過去の経験から、現行制度下での再投資には依然慎重だ。米国がさらなる増産を目指すうえでは、中国が大口債権者として発言権を主張する可能性もある。中国の既得権益や法的権利が複雑に絡むことで、米欧企業側の対応も一様ではなく、利害調整は複雑化するだろう。
原油安と米国石油業界の苦境
こうした政策介入は、米国の石油産業にとっては必ずしも好ましいものではない。トランプ大統領の思惑通りに原油が1バレル50ドル近くまで下落すれば、米国内のシェール企業の経営は圧迫される。2025年12月時点で、ダラス連邦準備銀行が公表した四半期エネルギー調査では、既に景況指数はマイナス圏にあり、米エネルギー情報局(EIA)は2026年に米国シェール生産が減少に転じる可能性を示唆。米国政府は油価押し下げ、石油業界の保護、さらなる地政学的緊迫化に備えた戦略石油備蓄(SPR)補充など、難しいかじ取りを迫られることになる。
以上
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