「イランで経済低迷を背景に抗議デモが拡大」 中東フラッシュレポート(2025年12月後半号)
調査レポート
2026年01月14日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2026年1月8日執筆
1.イラン:経済低迷を背景に抗議デモが拡大
12月28日、イラン通貨リアルの急落を直接の引き金として、首都テヘランの商店主らが物価高騰と通貨安に抗議し、市場を閉鎖するデモを実施した。抗議行動はその後、全国各地に波及し、学生を含む市民が街頭に集結した。参加者の中には体制批判のスローガンを掲げる者も多く、経済的不満が次第に政治体制への抗議へと発展している。
リアル相場は年末にかけて下落ペースを加速させ、闇市場では1米ドル=約141万リアルと過去最安値を更新した。過去1年間での下落率は7割を超える。国連制裁の復活以降、インフレと輸入コストの上昇が深刻化しており、食料品価格は過去1年で平均66%以上、品目によっては70%超上昇し、家計を大きく圧迫している。
各地で治安部隊との衝突も発生しており、人権団体によれば1月6日までに少なくとも35人が死亡したとされる。政権側は沈静化を急ぎ、ペゼシュキアン大統領は「デモ代表者と対話し、国民の正当な要求に耳を傾けるよう内相に指示した」と表明した。一方、最高指導者ハメネイ師は「経済的抗議は正当」と一定の理解を示しつつも、「暴徒はしかるべき場所に追いやられなければならない」と強硬姿勢も維持している。
リアル急落の責任を取る形で中央銀行総裁が辞任したほか、大統領は1月1日、生活必需品輸入向けの優遇為替レートの廃止を発表した。ただし、この措置は物価上昇を一段と加速させ、国民の不満をさらに高める可能性がある。トランプ米大統領はSNS上で情勢への介入を示唆しており、制裁の影響も含めた経済悪化の中、最高指導者の権力継承を控える体制が安定を最優先にどのような対応を取るのかが注目される。
2.イスラエル/ソマリランド:イスラエルがソマリランドを国家承認
12月26日、イスラエルはソマリア北部に位置するソマリランドを国家として承認した。1991年にソマリアから一方的に独立を宣言した同地域は、独自の政府・通貨・憲法を有し、事実上の国家として機能してきたが、これまで国際社会から正式な承認は受けてこなかった。イスラエルは国連加盟国として初の承認国となる。
背景には安全保障上の思惑があるとみられる。ソマリランドはアデン湾を挟んでイエメンと向かい合い、フーシ派を抑止する戦略拠点となり得るほか、パレスチナ自治区ガザ住民の域外移送先として候補に挙がり、接触が行われていたとの報道もある。ネタニヤフ首相はソマリランドのアブドゥラヒ大統領とオンライン協議を行い、同氏をイスラエルに公式招待した。ソマリランド側はこれを「歴史的瞬間」と歓迎し、「アブラハム合意」への参加意欲も示している。
一方、反発は強く、ソマリア政府は今回の承認を自国の主権と領土保全に対する重大な侵害と非難し、国連安保理に緊急会合を要請した。アフリカ連合(AU)も即時撤回を求め、エジプト、サウジアラビア、トルコなど中東諸国もソマリアの領土一体性を支持している。イスラム協力機構を含む20以上の国・機関が反対を表明した。
イスラエルは「誰を承認するかは自国の主権事項」と主張し、サアル外相がソマリランドの首都ハルゲイサを訪問して相互の大使館設置で合意したが、ガザ住民移住や軍事基地設置を巡る疑念は払拭されていない。今回の承認は、紅海・アデン湾の地政学を揺さぶり、新たな地域不安定化の火種となる可能性が高い。
3.フランス/UAE:マクロン大統領のUAE訪問
12月21~22日、マクロン仏大統領はUAEを公式訪問し、アブダビでムハンマド大統領と会談した。両首脳は経済・投資・文化に加え、再生可能エネルギー、先端技術、人工知能(AI)、持続可能性といった分野での協力強化について協議し、「中東の安定」を念頭に戦略的パートナーシップを深化させた。
UAEはフランス製軍事装備の最大級の購入国であり、2021年にはラファール戦闘機80機を購入するなど、安全保障関係は極めて緊密である。一方、UAEはイエメン紛争やスーダン内戦を巡り、武装勢力への武器供与疑惑で国際的な批判にさらされている。UAE側は関与を否定しているものの、武器が現地武装勢力に渡っている可能性が指摘されている。
4.イラク情勢
- 12月29日、11月11日の選挙で選出された議員による第6期議会の初会期が開催され、タカッドゥム(進歩)党のハイバト・アル=ハルブーシ氏が議長に選出された。イラクでは慣例として、議会議長はスンニ派、大統領はクルド系、首相はシーア派から選出される。新議長は1980年生まれの45歳で、ハルブーシ前議長の親族にあたる。バグダッドのムスタンシリーヤ大学で政治学の修士号を取得し、第4期および第5期議会では石油・エネルギー委員会委員長を務めたほか、進歩党の創設メンバーの一人でもある。
- 議会が議長および副議長2人を選出したことを受け、次の段階として大統領選出の手続きが開始された。憲法上、大統領は新議会の初会期から30日以内(1月28日まで)に選出される必要があり、その後に首相選出のプロセスが始まる。大統領候補には、40歳以上であること、両親がイラク人であるイラク国籍保持者であること、大学学位を有すること、良好な評判と政治経験を備えていること、道徳的堕落を伴う犯罪で有罪判決を受けていないことなど、複数の法的要件が課されている。
- スーダーニ首相はテレビインタビューにおいて、バグダッドで米国とイランの直接対話を調整しようとしていることを明らかにした。また、トランプ大統領とも近い関係にあるバラック米国特使(駐トルコ大使)が、この調整に関与していることも付言した。
- 2025年末、閣僚評議会はハイブリッド車および電気自動車の輸入に15%の税を課すことを承認し、2026年1月1日から施行することを決定した。しかし同決定については、すでに暫定政権となっている現内閣の権限を越えるものだとして、新議会が無効化を検討する動きが出ている。ある議員は、11月11日(選挙日)以降に発出されたすべての閣議決定は法的効力を有しないとの見解を示している。
- 11月の原油輸出詳細: 輸出額 66.0億ドル、輸出量 日量 355.3万バレル、平均単価 61.87ドル/バレル。
5.リビア情勢
- 12月22日、トルコ議会は、リビアに展開するトルコ軍の任務期間を2026年1月からさらに2年間延長する動議を承認した。両国は2019年末に安全保障・軍事協力協定を締結しており、トルコは2020年1月以降、リビアに部隊を派遣している。
- 12月23日、トルコで発生した航空機墜落事故により、リビア軍のハッダード参謀総長が、リビア軍関係者4人および乗員3人(うち2人はフランス国籍)とともに死亡した。一行は首都アンカラでギュレル国防相およびトルコ軍参謀総長らとの公式会談を終え、リビアへ帰国する途中であった。事故は離陸直後に発生し、墜落地点はアンカラから南方約70キロメートルの地点とされている。トルコ当局の予備調査では、技術的故障の可能性が示唆されている。同参謀総長はカリスマ性のある軍指導者として知られ、対立勢力を含め国内で広く尊敬を集めていた人物であった。
- 12月26日の夜以降、3夜連続で、首都トリポリのほかザウィヤ、ミスラタなどの都市において、国民統一政府(GNU)の汚職、物価高騰、生活環境の悪化に抗議するデモが発生した。デモは夜間を中心に行われ、組織化された動きや明確な指導者は確認されていない。現時点では政権を直接脅かすほど大規模ではないものの、国民の不満の高まりは顕著であり、今後、GNUの正当性に対する疑念の拡大や、選挙実施を求める機運が高まる可能性がある。
- 12月30日、メンフィー大統領評議会議長は、イスラエルが「ソマリランド」を一方的に国家承認した動きを改めて拒否する立場を表明した。これに関連し、アルバウル外相代行も、リビアがソマリアの全領土に対する主権を支持していることを強調し、「ソマリランド」を国家承認したイスラエルの発表を拒否する姿勢を明確にした。
- リビアは韓国中古車の最大の輸出先となっており、2025年1~11月の間に約11万9,000台を輸入した。
以上

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