中国:第13次5か年計画草案の概要

2015年11月06日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
貞川 晋吾


はじめに

 2015年10月に行われた五中全会で、中国共産党は、2016年から2020年をカバーする第13次5か年計画の草案を策定した。現段階の草案では、政策ごとの具体的な記述や数値目標はないが、今後、発展改革委員会を中心に、計画の要綱が起草され、省庁、地方政府、業界団体などとの協議を経た後、 2016年3月の全国人民代表大会、いわゆる全人代での採択を経て、中国政府の公式文書となる。

 

 中国の5か年計画は、政治・経済・社会などの広範な領域にわたる政策、経済施策、達成数値目標、重点国家プロジェクトなどが盛り込まれており、国の運営の指針となるものである。

 

 

1.注目点

 今回の5か年計画で注目すべきと思われる点を整理した。(別紙≪資料1≫-1参照)

中国:第13次5か年計画草案の概要資料
(住友商事グローバルリサーチ作成)

 

(1) 小康(ややゆとりのある)社会の全面的完成

 まず本計画には、2020年までに、ゆとりのある社会を全面的に完成させるという大目標がある。具体的には、2010年比でGDPと国民の平均所得を2020年までに倍増させることで、習総書記は、対象の5年間平均6.5%の成長率がボトムラインであると発表している。この小康社会の全面的完成という目標は、習政権が発足した時の党大会で決められた、「二つの百年の奮闘目標」の内、共産党の結党百周年という最初の百年の目標である。共産党百年の歴史の集大成であり、目標は必達と思われる。

 

(2) 習政権、「新常態」移行後、初の5か年計画

 本計画が、習政権にとって、急成長時代からニューノーマルに移行して以来、初めての5か年計画であること、また、計画の説明を総理ではなく、総書記自らが行ったことも、力の入れようや経済政策の方針策定は政府ではなく、党の仕事だという方針の表れだと思われる。

 

(3) 発展における5つの理念

 本計画は、5つの理念(①イノベーション、②強調、③エコロジー、④開放、⑤共に享受する)に基づいて作成されている。

 

 次の節で各理念に基づいた施策をあげる。

 

 

2.第13次5か年計画草案における施策 (抜粋)

 第13次5か年計画草案原文にある膨大な施策の内、われわれが独自の判断でピックアップした、ごく一部を各理念ごとに紹介する。(別紙≪資料1≫-2参照)

 

①イノベーション(中所得国のわなを回避するためには、イノベーション、自主技術が不可欠)

・「大衆創業・万衆創新」は、大衆による起業やイノベーションを意味する言葉で、最近よく目にする。それを国として促進しようとしている。

・「インターネット+」は、既存ビジネスの中にネットの利便性を取り込むことである。例えば、"+医療"は電子カルテ、"+金融"はネット金融といったイメージである。

・「中国製造2025」は中国を製造強国にするため、イノベーション、情報化、基礎技術などの強化を図る10か年計画である。

・「一帯一路」「北京・天津・河北共同発展」「長江経済ベルト」は国家の三大地域戦略で、さらに、都市の公共交通や都市の地下のパイプライン、エネルギー、通信分野の独占業種の開放などがイノベーションのカテゴリーの中に入っている。

 

②協調(都市・農村の格差、都市内部の格差、地域発展の不均衡などの是正)

都市化や戸籍制度改革などが施策として挙げられている。

 

③エコロジー(環境の保護、資源の節約)

低炭素社会をイメージした産業、エネルギー施策、更に鉄道の建設、電動自動車産業の発展促進、節水型社会の建設などが盛り込まれている。

 

④開放(より高いレベルの開放型経済へ、利益共同体の構築、世界経済ガバナンスへの参画)

最近話題になっている人民元のSDR入りを推進し、どこでも自由に使える通貨にするという施策がある。また、開放の中には、中国が海外に利益共同体という仲間を作ること、国際的な発言権を強化するという側面もある。

 

⑤共に享受する(発展の果実を国民で共有、公共サービス、社会保障の平準化)

貧困の撲滅、国民皆保険などが入っているが、定年退職年齢の段階的引上げ、二人っ子政策の全面的実施については、中国国内でも話題になった。

 

⑥共産党の指導強化・改善

これは、5つの理念ではないが、共産党が経済発展を指導する、ガバナンスを強化し、平穏無事な中国を作るなどが挙げられている。

 

 

 別紙≪資料1≫-3にその他参考事項についてまとめたが、2つ目以下の2010年のGDP、同年の都市住民の所得と農民の収入、これらが2020年でそれぞれ倍以上の数字になっていれば、最初の百年の目標は達成されることになる。

 

以上

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